「紅想の辿り着く場所〜アルザ編中編〜」   作:シルバー





メイムナー銀鱗亭特設決闘場(訓練所)

マロウとアルザの訓練という名の決闘をやるという話はあっという間に銀鱗亭内に広まった。

「前も思ったんだが…… 何でこんなに広まるのが早いんだ?」
「さあ?」

訓練所の周りには観客の山、山、山!
そのため、決闘場が特設されたのだった。

『さあ! これより、銀鱗亭主催ギンリンFightを開催します!』

決闘場内に元気の良い声が響く。
いったい何時作ったのか、見事な実況席が設けられていた。
声の主はそこに居るようだ。

『実況はわたくしミロニが担当致します! 解説者にはどんな相手でも十秒は耐える事が出来る変態尻魔!アラドさんと!
 何で解説者に選ばれたのか全く解らない!見事な牙がチャームポイント!カーランシアさんでお送りします!』

いったい誰がどんな基準で選定したのか、誰もが「何故カーランシア?」と思ったとか思わなかったとか。

『いや、マジで何であたしなんだよ!? 他に解説者に向いてる奴は沢山居るだろ!?』

本人も納得できないといった感じで抗議するが……

『えっとですね…… 影でコソコソやってるつもりだったんでしょうけど、バレてたんですよー』

会場の誰もが頭にクエスチョンマークを浮かべる中、ミロニの言葉に青ざめるカーランシア。

『なっなっ…… まさか!?』
『そのまさかです! カーランシアさんはー!』
『ギャー!?解った!解ったから言うなー!!』

今度は顔を真っ赤にしてミロニに噛みつこうとするカーランシア。
いったい何があったのか、それはまた後程。

『フーッ!フーッ!』

顔を真っ赤にしながら、目には涙を溜め、何故かマロウを睨み付けるカーランシア。

「マロマロ、お前何かしたのか?」
「いや、睨まれる様な事は何も…… ?」

何故睨まれるのか解らないマロウは、首を傾げながらセコンドの下に向かう。
アルザも自分のセコンドの下に向かった。

「お前、ホントに何もやってねぇのか?」
「彼女が…… あんなに取り乱すのを初めて見たぞ……」

マロウのセコンドには気の合う友・黒鉄と何故かギーナが居た。

「ああ、あんなになる様な事はしていない」
「…… 確かに、お前が妙な事するとは思えねぇしな」

変わってアルザのセコンド。
そこには、ルヴィアとクラリッサの姿があった。「アルザ、前みたいにズバッとやっちゃいなよ」
「そう簡単にいかないと思うよ? マロウの顔、やけにスッキリした顔してるからねぇ…… 気をつけなよ姐さん」
「解っているさ、マロマロはあの時より確実に強くなっている」

アルザは準備運動をするマロウを見てニヤリと笑った。

「だからと言って負ける気なんて無いんでしょ?」
「当たり前だ」
「あんな苦労もせずに可愛い女の子達に囲まれる様な奴ぶっ飛ばせ!」
「…… ルヴィア、アンタねえ」

ルヴィアの私怨極まりない言葉に呆れるクラリッサであった。

実況席

『さて二回目の対決であるマロウVSアルザ、アラドさん、今回はどちらが勝つと思いますか?』
『そうだな、マロウとアルザ、勝敗は五分五分ってとこだな』
『五分五分、前回はアルザさんが勝利しておりますが…… 何故そう思われますか?』
『前回はマロウが万全とは言えなかったからな…… アイツの顔を見る限り完全に吹っ切れたみたいだからな』
『なる程、つまり今のマロウさんは前回よりも強いというわけですね?』
『かと言ってアルザだって前よりも強くなってるだろうからな』『それで五分五分と…… なる程…… これは盛り上がりそうな予感がします!』

意外とまともな実況をする二人。
最初の実況を聞いた限りでは、かなりお笑い要素満載な実況内容になると思っていた観客は驚く。

「ちゃんとやってんなあいつら」
「うむ、最初はどうなる事かと思ったがな」

観客席の一角、妙に人が少ない場所に夫婦よろしくミュールとハンナベルが並んで座っていた。
どうやら観客も野暮な事はしないといったところか。
よく解っていない子供以外は周りに座っていなかった

「ミュール、そなたはどっちが勝つと思う?」
「…… そうだな、実況席に居たなら、俺もアラドと同じように五分五分って言ってただろうな」
「ほう?」
「アルザが前より強くなってるのも事実だろうが…… マロウの奴は確実に隠し玉を持ってる」

ミュールの予想に頷くハンナベル。

「ふむ、確かに…… だが、それはアルザとて同じであろう?」
「ああ、だが…… マロウの隠し玉は未知数過ぎる」

ドクロ峠の戦いやモガミ救出の時に使ったクリムゾンブラッドの力は条件付きで解放出来る力、この決闘では使えない。
だが、クリムゾンブラッドの力は未だ未知数。

「さて、この勝負どうなるか」実況席(裏)

「ところで、さっきからムスッとしてるカーランシアさんはどっちが勝つと思う?」

マイクの電源を切り、カーランシアに質問するミロニ。

「マロウ」

対するカーランシアもマイクの電源を切り答える。
その答えにやっぱりといった顔をするミロニだったが、カーランシアはあっさりと否定する。

「勘違いするなよ? アイツ…… とんでもない隠し玉持ってやがるんだよ」
「とんでもない隠し玉?」
「何だそれ?」

その言葉にアラドもマイクの電源を切り話に加わる。

「見たら絶対驚く隠し玉」
「「?」」

カーランシアの答えに首を傾げる二人。
だが、その答えの意味をすぐに知る事になる。

決闘場

「さて、二人共準備は良いか?」

審判は前回同様、エアリィが務めていた。

「我は良いぞ!」
「ああ、俺も問題ない」

二人の答えに頷いて、開始の合図を出す準備をするエアリィ。

『さあ! 遂に始まります! マロウVSアルザ! 二回目のこの戦い、今度はどちらが勝つのか!』

「初め!!」

エアリィの合図と共に、マロウとアルザの勝負が始まった。


マロウセコンド

「黒鉄よぉ」
「なんだ?」

マロウのセコンドで首を傾げるギーナ。

「俺達の力を借りるってどういう意味だ? この戦いに俺らが手を出せるわけねぇのによ」
「…… そうだな…… だが、見ていれば解るだろう」
「ま、確かにそうだけどな」

そう言って勝負に集中する二人。

決闘場

「アルザ、今回は攻めるから覚悟しておけよ?」
「ふっ…… 望むところ!」

攻めると言ったマロウは、次の瞬間不思議な行動をとった。
どこから取り出したのか、手には黒系の色をした玉を2つ。
その2つの玉を手甲の宝石部分に【埋め込んだ】
そして、何処からともなく声が響いた。

『マロウ! ギーナ! 黒鉄!』

不思議な光に包まれるマロウ。

「くっ」

あまりの眩しさに目を細めるアルザ。
光が止んだ時、目の前に居たのは……

「ほう? これはまた……」

顔はマロウのままなのだが、上半身はギーナの様に黒では無いが白い影の様なものを纏っていて、下半身には黒鉄の具足を纏っている姿のマロウが立っていた。

『なっなんと!? これはっ!』『なんだありゃあ!?』
『やっぱり驚くよなぁ…… でもあれだけじゃないんだよなぁ』
『『はい?』』

実況席のミロニとアラドが驚いた声をあげる。
無理もない。
こんな奇天烈な格好を見て驚かない者は少ないだろう。
だが……

「いくぞ!」
「!」

マロウが先に手を出した。
その攻撃は……

「ありゃあ俺の!?」
「なる程な…… 【力を借りる】…… とはそういう事か……」

マロウの腕から白い影の様なものが鞭の様に伸びたのだ。

「っ! まさか、そんな隠し玉を持っていたとはな」

意表を突かれたものの、マロウの攻撃を防ぐアルザ。

「1、2ヶ月前くらいに使える様になったばかりだがな」
「そのわりには付け焼き刃には思えんぞ?」

笑顔で会話する二人。
だが、観客席や実況席はそんな二人とは打って変わってシーンとしていた。
その静寂を破ったのはミロニの実況だった。

『こっこれは驚きです! マロウさん! とんでもない隠し玉を持っていたぁ!』
『まさか、他人の力を使う能力なんてなぁ……』
『アラド、違うぞ』
『あ?』

アラドの言葉に訂正を入れるカーランシア。

『あれは【家族】の力を借りてるんだってよ』

『……』 『【絆】が繋がってないと力借りれないんだとよ』マロウの能力について解説するカーランシア。
その姿にポカンとするアラドとミロニ。
まあ、無理も無いだろう。

『だから、好き勝手に誰彼の能力が使えるわけじゃない…… なんだよ?』

ポカンとしている二人に気付き解説を途中で止めるカーランシア。

『……』
『何なんだよ!?』

妙な空気に苛立ってきたカーランシアは声を荒げる。

『…… お前、何でそんなに詳しいんだ?』
『!?』

アラドの言葉で自分が自爆してしまった事に気付いたカーランシアは、口を金魚の様にパクパクとさせ言葉を失った。

決闘場

「はっ! せいやっ!」
「ちっ! 鞭擬きが邪魔で近付けん!」

実況席の空気とはまったく違う空気を放ち、実況席そっちのけで戦うマロウとアルザ。
マロウの放つ影の鞭に中々近付く事が出来ないアルザ。
影自体にギーナ程の威力は無いが、鞭の扱いが相当上手いのとマロウ自身の能力の高さがそれを補っていた。

「借りた能力の威力は劣化コピーに過ぎないが……」
「ちっ!」

影の鞭がアルザの腕に巻き付く。

「要は使い方次第というやつだ」
「その様だ…… なっ!」
「むっ!」

腕に巻き付いた影を掴み引っ張るアルザ。
マロウを引き寄せようとしたようだか、そう簡単にはいかなかった。
踏ん張ってその場に留まるマロウ、アルザと力比べが出来るあたり、彼の筋力はそのままの様である。

「そう簡単にはいかんか」
「そう簡単にはやらせないさ」

そのまま膠着状態に入る二人。
解る者には解るだろうが、二人の居る床が凹みひびが入っていた。

(何という馬鹿力じゃこやつら)

内心驚きつつも、二人の戦いをしっかりと見ているエアリィ。

「おいおい…… マジかよ」
「これは……」

「うわっ…… マジ?」
「前々から思ってたけど、二人共ホント規格外だねぇ」

マロウとアルザのセコンドの四人も、二人が恐ろしい程の力で引っ張り合いをしている事に気付いていた。

「このままでは拉致があかないな……!」
「そう思うなら大人しく我の下に引き寄せられろ……!」
「言ってる事が……! おかしいぞ……!」
「そう……っか!」

長い膠着状態に観客が痺れをきらし始めたところだった。
床のひび割れが酷くなっていき、遠くから見ている観客や素人目にも解る程になっていった。

「おっおい……」
「ああ…… もしかして……」
周りがざわつき始めたのを見たミュールとハンナベルは、観客がマロウとアルザの二人がとんでもない怪力で引っ張り合いをしている事に気付き始めた事に気付いた。

「どうやら気付き始めたみたいだな」
「うむ…… なあミュール」
「ん?」
「あの二人が組んで暴れたら、洒落にならない気がしてきたよ」
「…… 同感だ」

決闘場

「さてっ! このままでは拉致がっ! あかないのでっ!」
「どうする! つもりっだ!」
「こうっ! するんだっ!」
「!?」

膠着状態の二人だったが、マロウが妙な【呼吸】をした瞬間、アルザが引き寄せられた。
一瞬だけ、気闘術で身体能力を限界まで上げて一気に引き寄せたのだ。

『おぉーと! アルザさんが引き寄せられた! 力比べはマロウさんに軍配が上がった!』

今まで沈黙していた実況席から急に実況が聞こえてきた。
実況席には、沢山の【歯形】が付いたミロニと【焦げた】アラド、そして……

『ヴゥヴゥ……』

怒りで顔が真っ赤になっているカーランシアが居た。
いったい何があったのか。

「ちっ! なら、このまま叩く!」
「お前ならタダでは転ばないだろうな!」

『流石アルザさん! タダでは転ばない! そのまま斬りつけた!』

やっと実況らしくなってきた実況。

「この距離ならかわせんだろう!」
「確かに【かわす】のは無理だな」

そう言った次の瞬間、マロウの下、影から大剣が飛び出してアルザの一撃を防いだ。

『なっなんと! 今度は影から大剣が飛び出したぁ! これは…… アラドさん』
『黒鉄の能力だな、アイツは色んな武器をマントや影から出してたからな』

アルザは最早何があっても驚かないと言わんばかりに攻撃の手を緩めなかった。

『おぉと! アルザさん、攻撃の手を緩めない!』
『また距離を取られたら攻撃が届かないからな』

アルザの攻撃を次から次へと取り出した武器で防ぐマロウ。
アルザの一撃一撃が強力なのもあるが、劣化コピー故に武器の強度が低く次々と壊れていく武器。

「どうした? そのままでは我には勝てんぞ?」
「解ってるさ」
「ならどうする? 我にリベンジをするんだろう?」
「こうする…… 刀牙!mode fang!」

マロウが叫ぶと同時に、背中の魔狼が光り、アルザにぶつかっていった。

「っ!?」
『なっ!? これは予想外! マロウさんの刀が狼に変わったー!』「…… まだ何か隠し玉を持ってそうだな」
「さて、どうかな……」

マロウはまた不思議な玉を取り出した。
今度は赤系の玉と緑系の玉と赤系の玉を取り出し手甲の宝石部分に埋め込んだ。

『カーランシア! アンジュ! アドラス!』

また光に包まれるマロウ。
現れたのは、カーランシアと同じ髪の色になり、シュナベウスのスケイルメイルを上半身に纏い、
下半身が何故か特殊なライダースーツとブーツを組み合わせた様な格好になった。
背中にはシュナベウスの翼が生えていた。

『ぶっ!? おい!? マロウ!? お前なにあたしの能力使ってんだ!?』
『あ、あれカーランシアさんの能力使ってるんだ』
『ーーーーッ!?』

またもや自爆するカーランシアであった。

「まさかとは思うが……」
「勿論飛べるぞ? ブレスもいける」

そう言って飛行するマロウ。
それを見た観客が驚く。

『マロウさん、最早何でもありですね…… あれは、頭部がカーランシアさんで』
『上半身がアンジュだな…… 下半身は…… カーランシア解るか?』
『解るか! あたしが何でもかんでも知ってると思うな!』
『んじゃ予想で』
『…… 多分、アドラスじゃねぇかな…… 稀に特殊なのが出る存在が居るって言ってたし……
 たしか、解ってるのでアドラスとリテルとニャッコがそうだって言ってたからな…… っておい…… 何ニヤニヤしてんだよお前ら!』

実況席はまたもや騒ぎになり途絶える。

「またか…… 何やっとるんじゃあやつら……」

実況席の状況に呆れるエアリィ。

「ちょっ!? マロマロ!? 反則過ぎだ!?」
「そう言われてもな」

上空から炎のブレスを吐くマロウ、それを避けつつ抗議するアルザ。

「熱っ!? 降りて来い!」
「解った」
「って降りて来るわけ…… 何?」

マロウは上空から蹴りを放つ体勢で降下し始めた。
かなりの降下速度だ。
その上、脚がどんな原理なのか、鳥の足の様な形に変形していた。

「ちょっ!?」
「セイッ! ヤー!」
「おわっ!?」

マロウの攻撃をかわすアルザ、彼女が居た場所は見事に抉れ壊れていた。

「マッマロマロ!? 殺す気か!?」
「死なない程度に威力は抑えてある、大丈夫だ問題ない」

普段のアルザなら、焦ったり驚いたりしないだろう。
今回はマロウがあまりにも奇天烈過ぎた。
この様な戦い方をする者などそうはいないだろう。


観客席【センター】

マロウの奇天烈過ぎる能力に驚いていたのは観客席も同じだった。

「あれっていいのかな?」
「気にしたら負けだと思うよ……」
「ニンジャ道具みたいなの作ったり、変身したり…… 挙げ句の果てに自分以外の存在の能力を借りれるって…… どんなチートよ」
「マロウ=ニンジャ? ゴイス=ジツ! このアルザ=サンとマロウ=ニンジャのインストラクション=バトルはゴイス級!」

実況席の上に位置する場所に居るのはアドラス、セティ、エルティ、モガミの四人。

「カーランシア=サン、他にはどんなゴイス=ジツがあるのデスカ?」
『だからあたしに聞くな!』

観客席から実況席のカーランシアに聞くモガミ、どうやらカーランシアがマロウの事に詳しいと勘違いをしている様だ。

「モガみん! また違う姿に変わるみたいだよ!
「オー! ヘンゲ=ジツ!」

セティの言った通り、どうやらまた姿を変える様だった。

決闘場

『オールモガミ!』

「次いくぞ」

三つの玉を全て同じ【家族】の玉にしたマロウ、すると聞こえてくる声が今までとは違った。

『モーガームズー! モガムズ!』

現れたるはキャタピラレッグに装甲竜のスケイルメイルを纏い、右手にパイルバンカーアームを装備したマロウだった。

「それモガミ関係あるのか?」
「…… 俺にも解らん」

観客席【センター】

「あれ、モガみんだよね」
「十中八九そうだと思うよ」
「拙?」

装甲竜のスケイルメイルは解るが、パイルバンカーアームやキャタピラレッグは全く関係ない。
…… 実はミハルの夢が影響しているのだが、モガミ本人やモガミの友セティ、使ってるマロウ自身すら解らないのであった。

観客席【VIP】

「…… なんか、次どんな姿に変わるのか気になってきたな」
「妾もだ」

観客席【レフト】

「マロウ大変身〜♪」
「マロウさん凄いねアルクちゃん」
「次が気になります!」
「あの力、大道芸とかに使えないかな?」
「最近子供あやすのに使ってたよ」

とまあ、ミュール、ハンナベル、アルク、アンジュ、ライカ、ソダス、ミネア等、マロウの変身を見た観客全員が、次の姿が気になってきていたのであった。

決闘場

「さあアルザ、この強固な守りどう崩す?」
「なめるなよ? 我にかかればそのくらいどうということはない!」アルザは気にも止めず勝つ気だが、深は焦っていた。

(アルザ殿はああ言ってるでござるが…… 正直厳しいでござる…… しかし…… )

マロウが変化するには、特殊な玉を手甲の宝石部分に埋め込む必要があるのは解ったが、彼の手際の良さと能力の高さで隙を突くのが難しいのだが。

(しかし、解せんのはマロウの戦い方じゃ…… 何故あれだけの能力を持っていながら一気に勝負を決めんのだ?)

先程のカーランシア、アンジュ、アドラスの能力で勝負を決する事は出来た筈である。

「アルザ殿、拙者が何か作戦を考えるでござるから、それまで……」「いらん!」
「アルザ殿!?」

深の提案を断るアルザ、彼女の顔は「全力で真っ正面からぶつかる!」と言っている様に見えた。

「正気でござるか!?」
「我は正気だ! マロウは自分の持てる力全てを使ってぶつかろうとしてくれてるのだ! それに応えぬのは失礼というものだろう!」
「アルザ殿……」

アルザの言葉に言い返せない深、そんな彼に言葉を続ける。

「マロウが全力で来るというのならば、我らもそれに応えるまでだ!」
「…… 解ったでござるよアルザ殿! しかし、マロウ殿の全力といえばクリムゾンブラッド…… あれは守り助ける時以外は使えぬ力のはず……」

マロウのクリムゾンブラッドの力は銀鱗亭住人の知る彼の全力形態。
その力は条件が揃わなければ使えないモノだ。
だが……

「なに、それは戦っていけば解る」
「アルザ殿?」

まるで何かを知っているかの様なアルザ、この戦いの先に何があるのか……

「行くぞマロウ!」
「来い!」

二人の戦いはクライマックスへと進み始める。


目次へ戻る