「紙芝居」 作:首吊雅樂太 戦は終われど、宿は終わらず まぁ忙しくて楽しい毎日は嫌いじゃ無いがな。 ガルガディアの帝都を舞台とした戦いが終わり少し経った。 少しずつではあるが、国の情勢は回復に向かい始めている。 ただ、戦闘の被害は尋常ではなく家を無くした民がメイムナー展開時に難民街に雪崩れ込んできた。 当然そうなれば銀鱗亭にそういった人達が立ち入る。いつも以上に忙しくなるのだ。 非番でも多少なりと手伝いをしなければならない。 私は銀鱗亭内で迷っている人を希望の場所に連れて行くと言う様な事をしている。 まぁ今は暇だからブラブラしているわけだが。 「あ、いた〜!」ここ数ヶ月で聞き慣れた子供の声。振り返ると竜の子が居た。名前は確かリンシアと言ったか。 「どうした」私に用事があった様で、走ってくる。 「あのね、新しいお友達が出来たからアムファルドさんのあの紙芝居を見せたいの!」笑顔でそう伝えてくる。 「そうか。・・・・というかお前も好きだな」私は苦笑しつつも承諾する。客の頼みは断れない。 「だって続きが気になるんだもん!」リンシアも楽しそうに笑う。 「あれは暫く続きはないぞ?・・・取ってくるから甲板にみんなで行ってなさい」そう言って私は自室へ戻る。 頑丈な箱の中に竜の翼の皮膜で作った大きな鞄がある。 中には私が避難してきた子供達のために作った紙芝居が入っている。 思いの外、子供達は気に入ってくれた様で、戦いの度に観客が増えている気がする。 子供達を待たせては悪いな。私は甲板へ急ぐ事にした。 「すまない、遅くなった」私が甲板に出ると、一画には子供の集団が座って居た。 「遅〜い!」単眼族の少年、確かクレイグと言う子だ。彼は私の紙芝居をリンシアと初めて聞いた子供だ。 「クレイグ、お話しを聞かせて貰うんだからそんな事言ったらダメでしょ!」 「うるさいなぁ。リンシアはボクと同じ歳なんだから偉そうにしないでよ!」 どうもリンシアとクレイグは仲が良いらしく、度々衝突する。え?逆じゃないかって? 嫌よ嫌よもなんとやら、って言うじゃないか。 「私から見れば二人ともまだ子供だ。ほら、喧嘩はやめて座りなさい」とりあえず止める。 じゃないと魔法と打撃の飛び交う喧嘩が起きてしまうからな。 「・・・リンシア。なんか増え方が異常では無いかい?見るだけでも20人弱居るぞ」 「うん!いっぱいお友達増えたよ!」無邪気な笑顔を向けてくるリンシア。 この子はこの元気で色んな人を惹き付ける。まぁそれでもこの増え方は信じ難いがな・・・。 「まぁいい。これで全員か?」 「うん。私が声を掛けて来るって言った人はみんな」 「よし。じゃあ始めるぞ」 狼と猫 昔々、有る所に毛皮が真っ赤な狼が居ました 「なんであかいのー?」はじめてみる子が首を傾げる。 「しー!お話しは静かに聞かないとダメだよ!」リンシアが注意する。 「続けるぞ?」私はそう言って続ける。 その狼は若いのにとても強い狼でした。 群れに襲ってくる魔物をやっつけてしまう程強い狼でした。 それは赤い狼が群れのみんなを大事に思っているからです。 狼はいつまでもみんなと幸せに暮らしたいから強くなったのです。 でもある日、沢山の猟師達がやって来ました。 群れはバラバラになり狼たちは殆ど狩られてしまいました。 赤い狼は怒って、猟師達をみんな食べてしまいました。 でも猟師達と戦ったときに右の目玉を鉄砲で撃ち抜かれていました。 赤い狼はとにかく走りました。 気付けば知らない山に入っていました。 もうダメだ。赤い狼は諦めて倒れました。 すると目の前に九本の尻尾を持った真っ白な狐が現れました。 そして狐は言いました。「強くなりたいか」と。 狼は応えました。「強くなりたい」と。 そして狼は狐からたくさんの事を教わって、前より強くなりました。 いつの間にか狐は居なくなり、赤い狼は旅に出たそうだ。 気が付くと銀色の竜が作った、不思議な街に着いていました。 そこには大きな宿屋があり、色んな形の人達が働いていました。 狼はそれを見て群れの事を思い出しました。 だから赤い狼は銀色の竜に頼みました。 「俺をここで働かせて欲しい。俺は強いからみんなを守れる」と。 すると銀色の竜は笑いながら言いました。 「お前は強い。でもまだ心は弱い。だからここで働いてもっと強くなれ」と。 狼は竜にいっぱい感謝して、いっぱい働きました。 少し経って、赤い狼は小さい猫を見つけました。 その猫は自分と一緒に居てくれる人を捜していました。 狼は自分が猫と同じ気持ちだったとき狐が助けてくれたのを思い出します。 そして猫に言いました。 「俺じゃダメか?俺は強いから一緒にいれば大丈夫だ」 猫は言いました。 「いいの?」 狼はこれでもかっ!と言うほど頷きました。 それから赤い狼は小さい猫の事を妹の様に娘の様に大事にしました。 狼はとても幸せになりました。群れのみんなはもう居ないけど、 銀色の竜が作った街に新しい家族が沢山出来たのです。 そしてその中でも一番大事な猫ができました。 風の噂では今でもその竜が作った街に赤い狼は小さい猫と一緒に居るそうな。 「おしまい」私がそう言うと子供達は拍手をしてくれた。 「やっぱり面白い!」リンシアは本当にこの話が好きで何回もしてくれと言う。 まぁもう分かると思うがこれは私の過去とスイの出会いを少し弄ったお話しだ。 創作というのが苦手な私にはこれが精一杯だった。 「ねぇアム兄ぃ」クレイグが何か聞きたそうに声を掛けてくる。 「ん?どうしたクレイグ」 「赤い狼は小さい猫の事が好きなの?」 「それは家族の大好きじゃなくて、と言う意味かな?」そう訊ねると彼は頷く。 困ったな・・・。こんな質問は初めてだからどう答えればいいか・・・。 ここは正直な気持ちを応えるのが一番だな。 「分からないよ。狼は猫を家族だって考えてる。でも狼もよく分からないんだと思うよ」 「そう言うものなのかなぁ」クレイグは不服そうに唇を尖らせる。 「んー・・・。じゃあクレイグは友達だと思っていた女の子をクレイグは恋人にしたい?って聞かれたらどうかな?」 「え!?いや・・・それは・・・その」クレイグは目を丸くして慌てる。 「クレイグが私に尋ねた事はそう言う感じなんだよ。分からないだろう?」 「うん。わかんない。でももしその女の子が良いならボクは良いな」一瞬だがチラッとリンシアを見た様な気がした。 正直、素直にそうやって感情を少しでも表に出せるのは羨ましく思える。 私も好きな人はいる。でも拒絶が怖くてまだ言えてない。・・・全く根性無しだな私は。 ・・・・・・。スイに好きな人が出来て、結婚とかなったら私はどうするんだろう。 というか彼氏を連れてきたときどんな反応をするんだろうか。 問答無用で勝負を申し込んだりしてないだろうか・・・・。 「アム兄ぃ?なんかすっごい怖い顔になってるよ・・・・?」複雑な表情のクレイグが視界に戻る。 「ああ、ごめん。考え事をしていた」 「ふぅん?」 「ほら。もうすぐお昼だから食堂に行きなさい。ハンナベルさんが待ってるぞ」 「そうだった!」クレイグは子供達の群れに駆け戻ってみんなを食堂に誘導し始める。 私はその様子を少し眺め、甲板に腰を下ろす。 「今の、貴様の話じゃろ」 「どわぁああ!?」不意に声を掛けられてらしくない反応をしてしまう。 「・・・そんなに驚かんでも良かろうに・・・」なんか少し落ち込んでいるのはアルザ。龍の化身である。 「いやアレはアルザ殿が悪い」霊刀・深。彼は刀にして鬼である。 「ええいやかましい!武人たるものが緩んでおるからいかんのだ!!」 「みっともないでござるよアルザ殿!ちゃんと間違えを認めるのも武人でござる!」 なんとなく黙って二人の遣り取りを眺めてみる。 「深、我の信条を忘れたとは言わせぬぞ!」アルザが鋭い目つきで深を睨む。 「信条!?そんなもの初めて聞いたでござるよ!?」 「では今此処で聞くが良い!我が信条は!退かぬ!媚びぬ!!反省せぬ!!!」 「自信満々で何馬鹿みたいな事を言ってるでござる!?それにそれ殆どどっかの聖帝のでござる!」 「あと微妙に間違ってるよな」なんかツッコミを入れると面倒になりそうなので指摘という形にする。 「そうそう。省みぬとは反省せぬという意味ではござらんのだよアルザ殿!」 「こまけぇこたぁいいんだよ!それよりアムファルド!当の本人が何故応戦してこぬ!」 「いや私としてはどうでもいいし。緩んでたのはまぁ本当として、それ以降の会話に私は関係ないだろ」 「ぐぐ・・・このクールに冷めた堅物頭を誰かハートのレンジで解凍してやらんかのぅ・・・・」 「それもまた誰かの盗用でござるね・・・。それはそうとアムファルド殿」深が私に向き直る。 「どうした深」 「伴侶はもう見つかり申したか?」ドスッ・・・と見えない霊刀が私の心を貫いた。 「そうじゃったな。フフ、その様子だとまだのようじゃな」ニヤニヤとアルザが笑う。 全くその通りで反論のしようがない。 「ああ。未だだ。だが心には決めている」 「ほう!貴様の好みを知る良い機会じゃ。我に教えよ」アルザは耳を突き出してくる。 「拙者も聞きとうございます!」深まで・・・・。 「分かった。ボソボソ・・・ 」 「ふむふむ・・・なんと!」アルザは目を丸くして私を見つめる。 「いやはや。アムファルド殿も男でござるな」深も微妙な反応。 「・・・・お前達は私が枯れた男と勘違いしてないか?」 「してた。」「でござる」こんな時だけ息ピッタリとか止めてくれ・・・。 「まぁそう言う事だ」私は一早くその場を離れたかった。 「待て。思いは伝えたのか」アルザが私を呼び止める。 「・・・まだだ」 「ならば急いだらどうだ」 「焦る必要はない」 「善は急げ、じゃぞ」アルザは笑っていた。 「で、ござるよ」深も笑っていた。 「・・・・考えを纏めさせてくれ」 私は心に決めた。次、いや次の次。いいやいつでも良い! 彼女に会ったとき、私が良いと持ったその瞬間。私は想いをぶつける。 あとがき どうも。これはアムファルドを投稿して銀鱗亭タグを巡っていたときから決めていました。 というか見た瞬間「素敵だな」と思ってました。 その割には絡んでないと言われたらそれまでです。 でもまぁ明記してないので次回、あるいはもう数回したら挑んでみます。 それでは。 目次へ戻る |