「とある日のお客さん」　　　作：首吊雅樂太 我は 以下略推して参る！！！ 「もし、そこの御仁」エアリィは振り返る。そこには妙な鎧をい着た男とカウボーイ風の男が居た。 「なんじゃ？もしかして銀鱗亭に宿泊かの？」 「まぁそんなもんだ。でも迷っちまったんだ」カウボーイは帽子で良く顔が見えない。<しかし聞いた事のある声である。 「そうか。それではあのデカい建物を目指すと良いぞ」エアリィは本館を指す。 「左様か。感謝致す」鎧の大男は礼を言うと歩いていく。その背には赤毛のアイツと似た刀を指していた。 そしてカウボーイはあの片目野郎と同じ色の髪をしていた。 　銀鱗亭：本館　 　 「二名での宿泊だな」アルモニカは例の二人を部屋に案内していた。「この部屋で良いか？」 二人は無言で頷く。 「ではごゆっくり」アルモニカは去ろうとしたが 「ちょい待ち。ここにアムファルドってのが居るよな？アイツは今此処に居るか？」カウボーイが訊ねる。 「いいや、アイツは今此処とは別の仕事場の要事で遠出している」そう告げて去る。 「・・・・だとよ九尾。どうする」カウボーイが大男を見る 「案ずるなアムファルドよ」大男はカウボーイに言う。「此処ではハッターと呼んだ方が良いな」 「おう。まぁ俺はちょいとブラブラして来るわ。どうせ直ぐにゃ帰って来ねぇんだろ？」ハッターは部屋を出る。 　銀鱗亭：の何処か適当な区画 「へぇ・・・この銀鱗亭って移動要塞だったのか。道理でデケェ訳だ」ハッターはブラブラしながら情報を手に入れる。 すると目の前に雑貨店が現れる。言わずも【フレアロット商会】である。興味本位で中に入る。 「いらっしゃいませ」中には当然エルティとセティが居た。「あら、何か必要ではなさそうな人ね」 「おう。ちょいと目に付いたもんでな」ハッターが応える。 「んん？お姉ちゃん、この人の声聞いた事有るかも」セティがハッターに近寄って眺める。 「そう？私は赤い頭髪に目が行ったわ」エルティもハッターを眺める。「あなた、名前は？」 「俺はハッターだ。俺の声と髪なんて似たようなのなら沢山居るだろ」内心焦るハッター。 【別のエデリオン】の彼としてはこちらの住人に認識されると厄介だ。それもこちらのアムファルドの知り合いなら尚更。 「・・・ふぅん。感じというか目の色まで・・・いえ。構わないわ。ごゆっくりどうぞ」エルティは笑む。 「あ・・・ああ。（・・・九尾の野郎は大丈夫かぁ？）」ハッターの心配虚しく 場所変わって銀鱗亭本館屋上（メイムナー甲板）。睨み合う二人の剣客。 片や大男、片や小柄の女性。 「応えて貰うぞ。貴様は何者じゃ。この世の者とは思えぬ」エアリィは九尾に剣を向ける。 「私はただの剣士だ。少し強いだけだ」九尾は断固として己の正体を明かそうとしない。 「では斬り合えば分かる！」エアリィが九尾の不意を突き斬りかかる。 が、九尾は少し身を動かしただけで回避する。 「無駄だ、長き時を生きし者よ。私が剣を抜き、加減を間違えば死ぬ。そして私はソレを望まぬ」 「死ぬか否かはわしが決める。さぁ剣を抜け！」再び斬りかかるエアリィ。 「已むを得ぬ・・・か」九尾は剣を抜きエアリィを弾き飛ばす。 「ふ、やっとその気になったかのぅ？」笑うエアリィ。 「死合では無い故、加減はさせてもらうぞ」先程とは打って変わって闘気を醸し出す九尾。 「構わん。御主の様な剣客と戦ってみたかったのじゃ」エアリィは楽しそうに笑う。 「では手合わせ願う！」 「受けて立つ！」 戦いは苛烈を極め、九尾とエアリィの神速の斬り合いの末、相打ちとなる。 そして後ほどこの戦いは【銀鱗亭屋上の決闘】として【エデリオン名勝負・銀鱗亭の巻】（著者不明）の一部として記載される。 場所と時間を少し戻して、フレアロット商会。ハッターは相変わらず棚を眺めていた。 「（すげぇな。ここまでマジックアイテムや素材を集めるなんざ一端の商会じゃ無理だぜ）」 勿論、銀鱗亭所属の肩書きも相まって、様々な物が集まる。 「（あの魔女、かなり遣り手だな。俺ならぜってぇ敵にゃ回したくねぇ）」と、視線に気付く。 セティが相変わらず見上げている。口をへの字にしてじーっと。 「どうしたチビ助。俺に惚れたか？」にっと歯を見せて笑う。 「な、何言ってんの！？知ってる人に似てるなぁってだけだよバーカ！」不意を付かれたのか動揺するセティ。 「冗談だよ。チビ助にゃ興味ねぇ」ハッターは視線を棚に戻す。 「あのさぁ、アタシ女の子だよ？」セティは依然としてハッターを見上げる。 「知ってるよ」適当に流すハッター。 「・・・ねぇねぇ」 「何だよ」しつこいセティに呆れた表情で顔を向けるハッター。 「帽子取ってみて」 「ホレ」そう言ってセティの帽子を取るハッター。 「うわあ！馬鹿！アンタのを取ってって意味だよ！」セティが帽子を取り返そうと跳ねる。 「ヤダね」そう言って帽子を返すハッター。 「・・・わかったよ。帽子は良いから質問に応えてくれる？」 「ああ」 「一人？」 「独身という意味でなら、イエス」 「彼女居た？」 「生まれて２４年間、１人も居ない」 「名前は？」 「アムファルド。・・・・・あ」 「やっぱり」セティがニンマリ笑う。 「・・・九尾すまん」そう言ってハッターは帽子を外す。 その容姿は両眼が有る事を除けばアムファルドそのものである。 「やっぱり。アムファルド君とそっくり」エルティも笑っている。 「いや、実際俺はアムファルドだ。だが色々と複雑でな」ハッターは頭を掻く。 「正体を隠したがる訳ね。でもあの大男は誰？」 「ああ、アイツはアムファルド・ヴォルナットの師匠だよ。九尾ってんだ」 「本名じゃなさそうね」エルティは腕を組む。 「俺も本名は知らん。ただの旅人だとさ」肩を竦めるハッター。 「ふぅん。ま、いいわ。それで何でここに来たの？」 「九尾が久々にヴォルナットの方に会いに行きたくなったらしい。留守みたいだけどな」 「そうそう。仕入れのためにちょっと出掛けて貰ってるのよね」 「そっか・・・じゃあ当分帰らないか」ハッターは相槌を打つと振り返る。「しゃあねぇ。九尾に伝えて明日帰るか」 「もうちょっと居ればいいのに」 「あんまりこっちに干渉したらマズいんだよ。俺と会った事は他言無用でな」そう言って店を出る。 フレアロット商会→銀鱗亭本館屋上 「・・・何やってんだ九尾」ボロボロで大の字にぶっ倒れている九尾をハッターは眺める。 近くには同じ様な感じでエアリィが倒れている。クリスが回復にあたっているのが違いか。 「彼女に決闘を挑まれたのでな」眼を開きハッターを見据える。「已むを得なかった」 「おいおい、あの人はあっちでも凄い人だったろう」呆れるハッター。 「そうだな。だがこちらの彼女は英雄として讃えられていなかった」 「でも同じ人なんだから」 「うむ。私も少々侮っていた」立ち上がる九尾。「同じだが違っていると言う事を忘れていた」 「俺もだよ。こっちでもあの魔女は凄い人だった。例の竜の子も居たしな」 「そうか。やはり銀鱗亭は銀鱗亭なのだな」九尾は笑う。 「まぁパラレルなんだから多少違うけど、こっちはこっちで楽しそうだ」ハッターも笑う。 「そうだ貴様には会えたか？」 「いいや、出掛けてるってさ」 「そうか。ならば明日には帰ろう。長居は無用だ」 「俺もそう言おうとしてた」 「さて、これからだが食堂で少し食べて飲もう。私も久々に酒が恋しい」 「んだよ珍しい。まぁ悪くはない」 　銀鱗亭：屋上→食堂 「お待ちどうさま。たーんと食べなさい」ハンナベルが料理を出す。 「うん。美味い美味い」ﾓｸﾞﾓｸﾞと大量に頬張るハッター。 対して九尾は黙って味わいながら食べる。 「それにしてもそっちのハッターとか。随分とうちの職員に似ている」ハッターを凝視するハンナベル。 「気のせいですよ気のせい」ハッターは少し顔を隠す様に皿を持ち上げる。 「気のせいである」九尾が付け足す。 「ほう・・・。だが他人の空似にしては似すぎだがな。あとそっちの九尾とやら」 「何か」九尾はハンナベルを見る。 「貴様も貴様で何か違うな。まるで人に非ず。例えるなら霞掛かった人影を見ておるようだ」 「何を言うかと思えば・・・。魔の長たる者よ。貴女も我々の掟を知っているはずだ」 「ええ。心得ているわ」コロッと雰囲気を変えるハンナベル。 「なれば何故、問い質す。それはやってはならぬ事であろう」 「お前は真面目すぎだ。もうちょっとフランクになれんのか・・・・」口をへの字に曲げるハンナベル。 「・・・御馳走様」そう言うと九尾は立ち去る。 「悪いなハンナベルさん。こっちじゃあんまり親しくしたらマズいんだ」 「何、アムファルドが謝る事はないよ」ハンナベルは笑う。「ただ九尾は少し堅くなり過ぎだ」 「でも見ず知らずのはずの俺たちが仲良かったらソレはソレでダメじゃない？」ハッターはもう一皿平らげる。 「確かにな。でも雑談するくらいなら大丈夫だろうて」 「昔から秩序とかそんなのに忠実なのがアイツでしょ。あ、御馳走様でした」 「お粗末様でした。・・・明日には帰るのだろう。向こうの妾にもよろしく伝えておいてくれ」 「はいよ」 ハッターは部屋に帰る。 翌日、九尾達はチェックアウトし、何処とも知れぬ崖に来る。 「さて、アイツに会えなかったけど帰りますか」ハッターは帽子を被り直す。 「そうだな。あまりこちらに干渉はしたくない」九尾は刀を抜く。 そして虚空に向かい一閃。そこに裂け目が現れる。 二人はそこをくぐる。何もなかった様に裂け目は消えた。 あとがきになりつつある何か どうも。改めてPFお疲れ様でした。 何となく書いてみたかった物を書いてみました。 パラレルワールドの住人という形で師匠とアムファルド（初期稿ver）を登場させました。 勝手なアレですが、ハンナベルさんは無限のパラレルの自分と繋がっているという感じにしてしまいました。 彼女の生みの親、雪凪さん、本当にごめんなさい。 ただアフターがあるので色々活動は続けていくつもりですので、まぁ見て頂ければ光栄です。 今までありがとうございました。そして今からも宜しくお願いします。 それでは。 首吊　雅樂太 目次へ戻る