「続!突撃!戦場のごはん!」 作:もゆき 龍姫の恋路に口を出す 「ステーキとパインサラダ増し増しで」 「私はオムライス」 「おぬし等・・・」 銀鱗亭の食堂で、何かあるはずのないものを見てるかのように、ジーっと半目でハンナベルはイアト達を見た。 「・・・なぜここにいる?」 「昼食を食いに」 「そうでなくて!」 バンっと机を叩いてハンナベルが怒鳴る。 「どうしてここにいるのかと聞いている!」 「だから昼食を食いに来たんだ。お昼を食べに食堂に来てはいけないのか?」 「はぁー」 ため息をつき、ハンナベルは再び訪ねた。 「戦場に行ったのではないのか?あんな戦艦まで持ち出して…」 「行ったぞ。だがさっきも言った通り昼飯を食いに戻ってきただけだ」 「・・・おぬしならあり得るな。あの戦艦はどうした?」 「手下に任してある。」 「無責任なやつだ」 「ああ、あと、お前と話がしたくてな」 「ほう?なんだ?」 「お腹の子はどうするんだ?」 「なぁ!?」 内緒にしてたと思っていたのに突然言われて、あわてふためくハンナベル。 「・・・気づいておったのか?」 「まーね。俺以外内にも勘のいい奴なら気づいてるんじゃないか?」 「そ、それで、どうするとは、どういう意味だ?」 「その子の父親はミュールなんだろ?」 「それがどうした?」 「あいつは事象の従者だ。この戦争が終わればいなくなる。」 ハンナベルは驚いた。ミュールが事象の従者であることを、イアトが知っていることに。 「おぬし・・・知っておったのか!?」 「知ったのはお前と同じ頃だがな。もっとも、普通の人間じゃないとは思っていたが。 まぁそれでだ、あいつがいなくなったらお前はあいつのことを忘れるだろう、お腹の子の父親であることですらな。 そのとき、おまえはどうなる?誰の子かも、いつできたかもわからない子をもって、おまえはどう思い、どうするだろうか?」 ハンナベルはうつむいて黙ってしまった。自分でもそのことを不安に感じていたようだ。 「それでも産むのか?」 「・・・産みたい」 「誰の子かわからなくなる子をか?」 「この子の父親はミュールだ!」 ハンナベルは大声で言う。 「たとえ妾がミュールのことを忘れても、この子の父親がミュールであることには変わりない! この子は、妾が愛した男の子だ!そのことだけは、絶対に忘れん!絶対にだ!だからこのことで後悔などせん!この子を産むことを後悔しない!」」 「ならいいんだ」 「は?」 あっさりとした態度でイアトが言うのでハンナベルは困惑してしまった。 「お前が後悔しないというのなら、それでいいんだ。結局決めるのは、お前の意志なんだからな」 「そうか・・・」 「まぁ、あいつとずっと一緒にいたいなんて思っても無駄だしな。今をこの瞬間を楽しめばいいさ」 「どういう意味だ!?」 「・・・どんな奴でも、永遠に一緒にいるなんて不可能だ。百年たっても千年たっても一万年たっても、永遠には届かない。 永遠なんてもんは永遠に来やしない。だから永遠求めるよりも、一瞬を輝かせろ。来るはずのないものを待つよりも、今この瞬間を楽しめ。 それが俺の考えだ」 「・・・おぬしも同じようなことがあったのか?」 「結構長生きしてんでね。子供ができたことはないが、色恋沙汰はそれなりにな」 「なるほど」 「言いたいことは以上だ。つうことで、早く飯を持ってきてくれ」 「やれやれ」 話を終え、ハンナベルは厨房へと向かった。 「ねぇイアト」 「なんだスゥ?」 「さっき言ってたイアトの色恋沙汰、詳しく聞かせて?」 「聞いて面白いもんじゃぁ…」 「い い か ら!」 いつものスゥからは考えられないような威圧にイアトは動揺した。 「早く」 「わ、わかった・・・」 食い物の恨みは・・・ 「ステーキとパインサラダです」 「きたきた」 ジュウジュウと音を立ているステーキと山盛りのパインサラダがテーブルの上に乗せられた。 「いったっだきまーす!」 イアトがステーキを口に入れようとしたその時 「皆ふせろ!」 「へ?」 アルザが叫ぶと、バゴォォォ!!という音とともに食堂の床から車?のようなものが飛び出し、そのままアルザを連れて倉庫へと飛んで行った。そして・・・ 「あああああああああ!」 その衝撃でテーブルにあったステーキが飛んで行った。食堂に押し寄せたゴロツキ達のほうに。 ドタバタドタバタ・・・ゴロツキ達に踏まれてステーキはぐちゃぐちゃになってしまった。 「俺のステーキ……」 踏みつぶされぐちゃぐちゃになったステーキをイアトは名残惜しそうに見つめていた。 「お〜の〜れ〜!」 イアトのその眼は怒りに燃えていた。今まで見たことのないくらい。 「もったいないから食べてしまおう」 もぐもぐ・・・踏まれたステーキを食べ終えたイアトは、ゴロツキ達に近づく。 「おい」 「あ〜なんだぁ〜」 「ティロフィナーレ!!(物理)」 ズパーン! ゴロツキの一人をイアトはおもいっきりぶん殴った。殴り飛ばされたゴロツキがズガッ!グシャ!という音とともに床に激突した。 「なにしやがるッ!」 「黙れ罰当たり共!!お前らのせいで俺のステーキが台無しになったじゃないか!!覚悟しろ!全員マミってやらぁぁ!」 イアトの両腕がまるで口しかない龍か獣のような形に変わる。そしてイアトはゴロツキたちに突っ込んでいった。 「ステーキが好きすぎる人!?」 その後食堂でゴロツキ達の阿鼻叫喚が聞こえたとかないとか。 これぐらいはやってやろう 自警団ラリースカのアジト『ねずみの巣』は、クリスを助けようと乗り込んだ銀鱗亭の人たちによって壊滅寸前となっていった。 「畜生!なんなんだあいつ等はよ!」 「無茶苦茶にもほどがある!」 「安心しろ!さっき増援を呼んできた。数ではこっちのほうが上なんだ。これで・・・ん?増援部隊から通信連絡?・・・なんだって!?」 「こちら増援部隊。どこかの戦艦に集中攻撃を受けている!さっき戦場に来たイアトとかいってる奴だ! なんでも銀鱗亭がどうのこうのと言っていた!こっちはほとんどやられちまったぞ、どうすrギャー!!」 「おい!どうした、おい!・・・」 「・・・増援は?」 「無理・・・そううだな・・・」 戦艦べヒモス内部 「敵部隊殲滅までおと1分ぐらいです」 イアトの手下の報告を聞きイアトは言う。 「殺すなよ。殺すとあれだ、あとあと面倒だからな」 「非殺傷攻撃なのでたぶん死んでないと思いますが、どうして殺してはいけないので?」 「あとあと面倒だって言ってたじゃないか?」 別の手下の答えに、質問した手下はこう返した。 「だからどうして面倒になるんだ?殺すほうが手っ取り早いぞ?」 「そうだな・・・イアト様、なんでですか?」 「依頼主がそう言ったんだ」 「依頼主?だれですか?」 さっきのとは別の手下が聞き、イアトは答えた。 「銀麟龍シャルヴィルト」 「「「え!?」」」 その場にいた手下が大声で驚いた。 「あ、あの銀麟龍シャルヴィルトですか!?」 「そうだ。あいつの言うことに逆らいたいか?」 手下の1人が大声でこう言った。 「いいか!敵は絶対殺すなよ!絶対だぞ!」 「あの銀麟龍に逆らうなんて・・・」 「考えただけでも背筋がゾッとする」 手下たちはボソボソとつぶやいていた。 「しかしザイランスとトライガルドの食糧庫に攻め込むんでしょう?こんなとこで道草食ってていいんですか?」 「助けれる者は助けろと言われているんだ。それに同じ釜の飯を食ったよしみだ。これくらいのことならやってやろうじゃないか。」 「まあ、いいですけど。それにしても丸くなったなあイアト様」 「前ならこの戦場にあるもの全てのものを容赦なく食いつくしてたよな」 「え?お人よしは前からでしょう?」 「お前は若いから知らないんだ。お前2千歳くらいだろ?ならあの頃のイアト様のことは知らないだろうな」 「先輩たち6千過ぎですもんね」 「うるせぇ。それにしてもあのころはほんと凄かった。まさに食欲の魔王!ってかんじで、本能のまま食い散らかしてたなぁ」 「そうそう・・・あっ敵部隊壊滅しました」 「おーそうか。じゃ前進再開」 ずずーとお茶をすすりながらイアトは言った。 全てを食らいに 「もうすぐザイランス軍本陣です」 「そうか。ここは俺一人で行く。お前らはトライガルドでクルーラ取りにいってこい」 「わかりました」 「私は?」 「スゥは留守番。 さすがに敵陣の中にまでは連れていけないからな」 「防衛の時はよかったのに?」 「あんときは雑魚だけだったが、今回は違う。大人しく待ってろ」 「わかった・・・」 「んじゃ、行ってくる。お前ら、スゥのこと頼んだぞ」 「イアト!」 呼び止められて立ち止まったイアトにスゥが抱き着いた。 「絶対戻ってきて・・・」 「わかってる」 2、3回頭を撫でた後、イアトはスゥから離れた。 「いってらしゃい」 スゥが手を振る。 「いってくる」 イアトは手を振り終えると、床から現れた巨大な黒い口に足元から飲まれた。 そしてイアトを飲み込んだ黒い口はそのまま地面に消えていった。 ザイランス軍本陣手前に一つの人影のようなものが見えた。しかし、ようなというようにそれは人ではなかった。 顔以外の全身は黒く、まるで闇をまとっているようにも見える。 そして体中のいたるところに鋭い牙をもつ口があった。 そしてそれは不敵な笑みを浮かべてザイランス軍に突撃した。 「死ぬき気はない。俺はまだ食い足らんのでな。それに、帰ってくると言ってしまったからな。」 『補足』 戦艦べヒモス 全長300m 全高105m 全幅150m 総重量40000t 古代文明が生み出した空中移動型戦艦。昔イアトに挑んで返り討ちにされた。 謎が多く詳しいことはわかってない(考えてないだけ)。 武装は口のように見えるハッチの中にある魔力などを破壊エネルギーにして放つ主砲1門。 魔力砲が艦の側面、底面に一門、艦首に二門。ミサイル多数。 イアトの手下 イアトの手下の悪魔たち。戦艦べヒモスを動かすために呼ばれた。今回呼ばれたのは20名ほどで、全員かなりの実力者。 平均年齢4600歳。恰好はバラバラ(考えてないだけ) イアト魔王形態 イアトが本気を出した時の姿。顔以外が黒い魔力の鎧に覆われ、体中のいたるところに鋭い口ができる。戦闘力はいつもの倍以上。 目次へ戻る |