「凶月」   作:匿名希望





から、から……
「ん?」
その微か音で俺――白葉陽司――の意識は僅かに浮上した。
枕もとの時計へ目を向けると五時前、やたら外は暗い。
仕込みや仕入れなどを入れても、起きるには少々早い。
……から、からっ
再び音がする。しかも今度は近い。
「……なんだ?」
泥棒かとも思ったが、こんな片田舎。それにこんなボロイ家にわざわざ盗みに入るとも思えない。
確かめるべきか。
そう思い、布団から立ち上がった時だった。
――とととっ!
こちらに走り寄る軽い足音。
そして、
――からっ!
目の前の障子が開かれた時、そこには見覚えのある姿があった。
「月見」
黒く長い髪をなびかせる童女の容姿。その頭には髪と同じく黒く長い耳が伸びる。
妖怪にして、この家の守り神のような存在。
俺にとっての唯一の家族――月見。
月見は白い寝巻きのままこちらを見下ろしていて。
「どうしたんだ月見」
なんの騒ぎだと声をかけた時。
「……違う」
小さく声が洩れた。
「は?」
思わず聞き返すが、月見はそのまま身を翻す。
「おいっ」
制止の声さえ無視しそのまま走り去ってしまう。
なにやら様子がおかしい。
胸騒ぎを感じ部屋を出たが、そこにすでに月見の姿は無く。から、と家のどこかで戸が開けられる音がする。
「月見!」
月見の異常な行動に追いかける間際、ふと見た空には削れた半月が浮かんでいた。


目的の彼女は直ぐに見つかった。
庭のど真ん中に素足のまま立ち尽くし、月見は空を見ている。
背を向けている今その様子はわからないが。
「どうしたんだ月見。なにか――」
あったのか、そう声をかけようとした時。
「ここは……ここはどこじゃ……」
小さな呟きが聞こえた。
「……ここはどこじゃっ! 知らぬ! どこなんじゃっ! こんな場所はワシは知らぬっ!!」
尋常じゃない声。
尋常じゃない様子。
なにより尋常じゃない言葉。
「ああっ! ああっ! なんじゃこの耳はっ! このようなものワシにはなかったはずじゃ!」
頭に手を当てると、自らの自慢であったはずの耳を触ると髪を振り乱す。
「お、おいっ!」
思わず声をかけるが月見はそれを気づいた風もなく。
突如空を見上げた。
「ああっ! ああっ! そうかこれが! これがあやつのっ! ああっ!! まだ打ち滅ぼせぬかっ! いまだ生き延びておるのかっ!」
その声は空に響き、三日月がそれを照らし――三日月?
たしか、先ほどは月は半月だったはずだが。
見る間見る間に三日月はさらに削れ、その姿が――
「ああっ! 憎い! 狐が憎い!!」
ふと月を見上げていた間に月見が狂行に移っていた。
「あー! あぁぁああっ!!」
自らの髪を引っ張り、その根元からブチブチと千切れる音がする。
乱暴に掴んだ耳を力の限り引っ張る。
「やめろ! なにしてるんだ月見!」
さすがに見てられなくなりその手を掴んだ。
「なにをする下郎! ワシを、ワシを誰じゃと思うておる!!」
――ガリッ!
「っ!」
押えた手に噛みつかれる。
「ぐうっ! 離せ! 離さぬか下郎っ!!」
だが離すわけにはいかない。
そのまま月見を押さえ込むように抱きしめる。
「ああっ!! 狐めっ! この惨めな体っ! 惨めな心! 全てっ! 全てお前がっ!!」
腕の中で月見が力の限り暴れる。
いくら小柄とはいえ手や足が体中に当たれば痛い。
そして止まらぬ聞くに堪えない罵声に――
「これが――むぐぅ!?」
その口を口で封じた。
――がりっ!
当然ながら重ねた唇から鉄臭い味が広がってくる。
ふと月見の顔が占める視界の端で、月が――完全に――消えた。
「んぐぅ! むぅぅううっ!!」
始めはジタバタと暴れていた体から、急に力が抜けた。
たらりと下がる肢体。
これもまた急劇な変化に思わず口を放すと。
「……足りぬ」
幽鬼のごとき言葉が漏れでた。
「……力が足りぬ」
ぼうと深紅の双眼がこちらを捕らえた。
満月のような丸い瞳が、心の芯へと食い込むように突き刺さり。
「――満たせ」
――どくっ
体の奥から何かが引き出される。
「――満たせ」
――ど、くんっ!
その言葉が全身に染み渡り発火し。
気がつけば――
「がっ……ぐぅっ!」
目の前の体を貪ろうとする体を必死に止めていた。
ぎちぎちと脳を締め付ける欲情、体中が熱く、魂から眼前の少女を求める。
だが、なにかが違う――どこかが違うと小石のような理性が無駄な抵抗をする。
弾き飛ばされそうな意識、硬直する体。
月見は再度命ずる。
「――満たせ――」

どこかで鎖が引き千切れる音がした。

急劇に脳内が澄み渡る。
そこに余計な思考は無く、ただ本能のみがあった。
まず邪魔な布を剥ぎ取る。たいした抵抗も無く未熟な裸体が晒されていく。
「――」
前戯もなにも無かった。
抱き寄せいきり立つ怒張を当てた時、すでにそこは滴るほどに潤っており。
――ず、ずぢゅぅぅうっ!!
「は、あぁぁああっ!!」
蜜を滴らせる割れ目に、ぢゅぶぢゅぶと埋まっていく。
それは途轍もない快楽を与え。
――ずぢゅるっ……ぶびゅるっ!!
奥へと行き着いた途端、耐え切れず射精する。
――びゅぶっ! どぼっ! びゅびゅるっ!
「ひっく! はぁっ! あぁぁあっ!」
不自然なほどの快楽が陰茎を駆け巡り、睾丸を刺激する。
信じられない量を噴出す中。
「ああっ! うあ……もっと――満たせ――」
その声を聞いた瞬間、腰を叩き付けた。
――ぶっぢゅっ!!
「ひぐぅっ!」
射精をしながら膣を抉る動きに、腰が抜けそうなほどの快楽が奔る。
――ぶしゅっ! びゅぶぶぶぶっ!!
結合部からこぽこぽと納まりきらぬ精液が漏れでる中、必死に擦り、抉り叩き付ける。
――ぶっぢゃ! ぶっちゃ! どっぽっ! びゅぶるっ!
射精をして腰を送り出し、射精をして膣を抉り、射精して子宮を突き上げる。
犬畜生のように無様なまでな浅ましさ。
溢れ出た精液が地面に水溜りを作っても、俺は止まらない――
「あがっ! ぎあっ! お、おぉぉおっ! まだ――まだ満たせっ!!」
――止まることを許されない。
だから。
――めきっ!
「ひぎぃあっ!?」
小さな腰をがっしりと掴むと、ぐりぐりと奥を抉る。
そこには小さな窪みがあり、めきめきと広がっていき。
――ぐぼっ!!
「がひぃぃいいっ!?」
その硬いゴムのように狭い穴に亀頭がはまり込み。
――ぼびゅるっ! どぼっ! どぼっ!
容赦なく精を流し込む。
「あぎっ! ぎあっ!」
小さな子宮はすぐに精液で満たされるが。
――びゅっぶ! びゅっぶ! ぶびゅー!
「ひぃぃっ! ひぃぃぃいいっ!!」
射精は止まらず、ぴっちりとはまり込んだ子宮口は精液を一滴も漏らさずそれでも注がれる精に徐々に月見のお腹が膨らんでいく。
――びゅるるるるっ! とぽとぽとぽっ!!
「あ゙ー……あ゙ぁぁああーーっ!!」
体中からかき集めて注ぎ込む快楽に目の前が暗くなり。
小さな獣のような喘ぎを聞きながら、視界の端から力強い暖かさ(陽光)を感じ。
俺は意識を手放した。


ふと気がつけばそこは布団の中であり。
「……夢か?」
枕もとの時計は七時を指していた。
すでに日は昇り、庭からはスズメの鳴き声が響く。
体を起こすと、どことなく重い。
あれは夢なのか、現実なのか。
混乱する思考の中。
「ん、んんっ」
もぞりと布団が動く。
「――」
そっとはぐって見ると、そこには寝息を立てる黒兎の少女がいて。
「……よーじぃ……すま、ぬ……」
泣きそうな声で呟いていた。
あれが夢なのか現実なのかわからない。
だがとりあえず。
「もう一寝入りするか」
布団をかけなおし、少女へと向かい合うよう横になる。
未だ泣きそうな顔の少女の頭を撫でた。
ボサボサになっている髪を撫でつけ、耳の毛並みを整えてやりながら。
起きた時、寝坊したことを怒鳴られることを想像し。
それもいいと思った。



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