「竜と銃のおとぎ話」   作:匿名希望





時は戦時、世は戦乱、場所は戦場。
それが現在のエデリオンを現した言葉である。
三頭の獣が狭い世界を取り合い、血で血を洗い、肉で肉を拭い、骨で骨を払う。
剣を手に、盾を手に、魔を手にそれぞれが何かを背負いながらもただ万進する。
この大陸は戦火と言う業火に包まれ、それはより大きくより強くなっていく。
だが戦争と言えど人には振り払えぬものがある。
空腹を満たす食事を、喉を潤すエールを、体を横たえるベッドを。
例え夢想であったとしても、なにより一時でも安らぎを。
血肉が飛び散る戦場で、そんなものはあるはずもないと誰もがわかっている。
だが、それはあった。
絶対的不戦領域。
戦場の中立地帯。
偽善なる慈悲。
銀鱗竜の巣窟。
戦場の宿屋。
様々な名で呼ばれ、様々な伝説と共に語られるそれは。

『Silver.Scale.INN(銀鱗亭)』

と名乗り、戦場を渡り歩く。



そこは戦場であった。
慈悲もなく、容赦もなく。
怒号が飛び、刃が振るわれ、火が踊る。
その場所はどこよりも激しく。
その時間はどこよりも貴重で。
「はいザイサイの和風煮込み二人前! 出汁骨スープ四人前! オップルパイ二枚あがり! さっさと持って行け!」
「はい注文! ウデの照り焼き六人前! グラ=タングラス三人前! 馬ナナ刺し一人前! あとエガオー焼き一人前!」
「こっちもです! ビッグドッグ一頭分! カブウサギリゾット二人前! 色物野菜サラダ四人前!」
「喧嘩でオップルパイを駄目にしちゃいました! どうすればいいでしょうか! あと追加お願いします!」
「料金分は給料から天引きだ! 喧嘩はフロアチーフ呼んで黙らせておけ!」
「がーん!」
「こっちでも喧嘩が! あとト馬トスープ煮込み三人前!」
「ええい! ここは厨房だ! 相談所じゃない!!」
「原因は酔った防衛班でした! と言うか注文の大半はあの竜人です」
「この忙しい時にっ! くノ一給仕にリュウソウ持っていかせろ!」
「いえっさー!」
……そこは、確かに戦場(厨房)であった。
今は夕飯時、戦場から一時避難してきた兵士や避難民も含め回転率が高くなる時間帯である。
毎日の出来事とはいえ、あまりの忙しさに誰もが殺気立つ中。
「――」
そこだけは静寂に包まれていた。
いや、音がないわけではない。
鍋を煮立てる音、かき回す音、皿を重ねる音。
そんな小さな音はある。
だが、やはり感じるのは静寂である。
孤独、隔絶、隔離。
その中心にいるのは一人の少女。
いや、外見こそ少女の成りだが見る者が見ればわかるだろう。
内在する強大な魔力。隠す気もない竜の角と尻尾。
ここが銀鱗亭……世界的に希少な銀鱗竜が異常なほど密集している場所だと言えばその正体はわかるであろう。
だがその姿に竜族特有の驕りはなく、覇気もなく、ただただ空虚。
そのような空気が周囲を満たし、そこだけ遠い場所のように感じられるのだ。
「ハンナ」
「――」
「おい! ハンナ!!」
「ひゃいっ!?」
かつて不殺の竜姫と恐れられた存在――ハンナベル=グラスドール――ハンナバルは全身で驚きを表現した。
「なにぼーっとしてるんだい! さっさとカブウサギリゾットを持ってきて!」
現在厨房は戦場、呆けている暇も余裕もない。
「う、うむ! あいわかった!」
急いで皿へと料理を盛ろうとして。
「熱っ!」
不注意か、思考が鈍っていたのか。指にかかった熱に驚き。
ガシャン!
「あ……」
たかが料理の熱ごとき、普段なら気にもしないことに対する過敏な反応。
前はその皿を受け止めた者がいたのだが。その状況の差異がさらに思考を鈍くさせる。
「はぁ……。ハンナ、ここは片づけておく。今日はもう上がっていいよ」
「いやでもっ!」
「ハンナ!!」
再び放たれた強い声にびくりと体を震わせた。
「調子悪いやつが頑張ってもらってもこっちに迷惑がかかる」
「う……」
たじろぐハンナベルにさらに言葉は重なる。
「料理は愛情。体か心か、どっちが悪いにしろ。その情が抜けきってる輩に美味い料理ができるはずない!」
「……」
「アンタが教えてくれたんだよ?」
言い返す言葉はなく、ただ俯くのみ。
「すまなかった……」
頭巾を取り、そのまま
「ほれ……なにがなんだか知らないけど。ばしっと解決してきな」
「……っ!」
その言葉にハンナベルは泣きそうな瞳を見せると、深く腰を折った。
「ありがとう」
背を向けて走り出すハンナベルを見て、彼女は大きく息を吐くと。
「まったく……世話の焼ける年長者だこと」
だが息つく暇はなく。
「ウデの照り焼きまだですかー!! あとリュウソウが効きませんでした!!」
「わかってるよ! 竜人には教官当てておけ! それとそこの抓み食いしてる脳筋魔法使いに猫耳薬飲ませてホールに叩きだせ!!」
その場は再び戦場と化した。



荒れ噴きつける風、そこは一番空に近かった。
星もない夜の下、見渡す限り地平を黒が染めつくす中、佇むは黒衣。
黒い。
それはまるで夜に溶け込もうとするかのようにそこにいる。
頭から手先まで隙間なく覆われ包まれる中、唯一浮かぶ色は顔と、ジジっと赤を灯すタバコの火だけである。
他に建造物はなく、小さな山よりも高く、柵もない展望台。
月も星も覆い尽くした雲は、夜の真の暗さを伝えようと躍起になる中。
彼が見るのは上ではなく。
「よう、また『星空』を見てるのか? ミュール」
声と共に彼の横からひょいと顔を出す者がいた。
その男は対照的であった。
白い。
それはまるで夜を拒絶するかのようにそこにいる。
身に付けるは全身を覆う白い甲冑。騎士を連想するその姿に一つかけている所があるとすれば、白から切り抜いたような黒い右腕。
右腕が動くたびキシキシと鋼が擦れる音がし、それが鋼の塊だと主張している。
黒と白の対称の間に、一つ大きな風が吹く。
「おうよアラド」
銀の居城の最も高い場所、広がるのは『小さな星空』だった。
家々から漏れる光、店先から響く笑い声。
死に最も近い場所でありながら、空白の地帯。
戦場でありながら、笑い声と光が灯る場所。
それは確かに星空であった。
煙を吐き出しつつ、黒――ミュールがタバコを下へと向ける。
「俺の特等席なんでね。狙撃手は見晴らしが良いが条件だろ?」
ニヤリと笑うミュールに白――アラドも笑い返し。
「馬鹿と煙はなんとやらと言うしな」
「うるせーよ尻馬鹿」
「なんだと乳馬鹿」
二人は顔を近づけ睨み合うが。
「はっ! 馬鹿馬鹿しい。やめだやめ!」
ミュールが鬱陶し気に手を振り、アラドは肩を竦めた。
どちらともなく再び眼下の星空を眺めだし、不意にアラドが口を開く。
「それで狙撃手殿は、この『星』を見て何を考えてたんだ?」
それにミュールは新しいタバコに火を点け、紫煙を吐き出した。
「……ずいぶんと遠くまで来たのに、この眺めだけはどこ行っても変わらないと思ってな」
脳裏に浮かぶのは空を駆ける船か、一面を雪に囲まれた国か。
「ミュール……感傷はお前には似合わないぞ」
「黙れ。それにここは寒くてな。心身を冷たくするにはちょうどいいんだよ」
「ああ、あれか。狙撃手は心と体を冷たくって自論か?」
「体は冷静で正確に、心は常にスコープ越しに食らいつけってね」
「お前らしい」
それはそうだ、と笑い合う。
馬鹿笑いし合う二人の間にまた一つ大きな風が吹き抜け。
「さて、俺は戻るわ。サボってるのがばれたらアルモニカにどやされる」
「おういけいけ、乳のねえ男はさっさと行っちまえ」
シッシと手を振るミュールに苦笑しながらアラドは戻っていった。
そして再び場は静寂に包まれ、どれだけ経っただろう。

「……ミュール!」

闇を裂く鋭い声が響いた。
ミュールが振り返ると、そこには息を乱したハンナベルがいて。
「はぁっ……はぁっ……」
「お、どうしたんだハンナベル。そんな息を切らせ――て?」
勢い込んできたハンナベルに腕を思いっきり引かれて戸惑う。
「なに――お、おおおおお?」
そのままズルズルと引きずられて。
「いたたたっ! どこ連れて行くか知らねえが、自分で立つから放せ――いたたたっ!」
竜の膂力の成すがままに地面を擦りながらミュールはついて行った。

着いた場所は宿の空いた一室で。
「いたた……せっかくの一張羅が埃まみれだ」
ようやく解放されたミュールが埃を払いながら立ち上がる。
そのまま懐からタバコを取り出すと咥え。
「で、何の用だハンナベル」
目の前でひたすら沈黙する少女へと問いかけた。
「……」
ハンナベルは無言。
ただ、火が香草を燃やす音が響いた。
「……ふー……無言じゃなんもわかんねえぞ」
吐き出した紫煙が天井へとかかり。
そっとハンナベルが抱き着いていた。
「ハンナベル何を」
問いかける言葉にかぶせるように、埋めた顔からくぐもった声が漏れた。
「ミュール……だ、抱いてほしい……」
「――は?」
その一言にミュールは思わずタバコを取り落しそうになり、下にハンナベルがいるのでなんとか阻止した。
「あー……ハンナベル。俺は乳好きとして生涯の誓いを立てているとはいえ、女を差別するわけじゃないんだ。
だが……親しい女からそういうことを言われて……嫌なわけじゃないが、唐突すぎるのもいかがなものかと」
冗談めかし言い訳じみたような言葉。
それは薄っぺらく、どんな状況でも相手の本意を激情へと焚き付ける“ため”なのだろう。
だが、ハンナベルは言葉に惑わされることすらしなかった。
「……言って……さって……ろう……」
「だからこそ……ん?」
放たれた言葉は一度目は小さく。
「……そう、言って……消え去って、しまうのだろう……」
二度目の言葉は震えながらも確かに響き。
「“次は”……無いかもしれぬのに……皆の記憶と共に……消えてしまうのでは、ないか……っ!」
三度目の言葉は強く叩きつけるようで。
「――どこで知った」
凍えるような声がそれを貫いた。
「いや、そんなことはどうでもいいか。それでハンナベル、そのことを知ったお前は、“何を思って抱いてほしいと口にしたか”言ってみろ」
「……っ……っっ!」
浴びせられる言葉は冷水で、頭の登頂を凍てついた視線が撫で、ハンナベルは口が開けなかった。
タバコを手に持つと、言葉はさらに降ってくる。
「同情か? それか自惚れかもしれねえが、恋は盲目ってところか?」
普段優しかった声には一切の熱はない。
「どちらにしろそんな安い感情で来られてもな――正直迷惑だ」
びくりと体が震えた。
どこまでも震える体温を感じながらもミュールは止まらない。
「どこまで知ってるかは知らねえ。だが、確信する場所に踏み込んでいるんだろ?だがそれで俺が可哀想だとでも思ったのか?
余計なお世話だ。
俺は俺の好きなように生きるし、それを勝手に同情して感情的になって悲しまれても誰が救われる?俺がか? じゃあ安っぽい救いなんだろうな」
ミュールがタバコを持った手を掲げると、その手がぶれるように映り、一瞬にして硬質的な輝きに覆われる。
そこに大した魔力の動きはなく、ただ人外として作り直された腕があるだけ。
「その押し付けがましい救いは俺をどこまで救ってくれる? この化け物みたいな……いや化け物そのものである俺をっ!」
言葉一つ一つが心を裂き、えぐっていく。
それは何一つ隠さない本心であり、本音であることはわかり、心はたやすく折れるだろう。
だが。
「……い、やだ……」
「あん?」
ジワリと……言葉が漏れた。
「妾が……いやだ……」
その言葉は弱弱しく、いかにも消え去りそうで。
「わかってる……わかっている……これが、わら、わの我がまま、だと……」
だからこそ、口をはさむことができなかった。
「勝手に悲しんで……勝手に、同情して……勝手に、恋を、して……か、ってに……すき、になって……妾の、我がままだと……おしつけて……でもっ……でも……っっ!!」
見上げた顔は涙でぐちゃぐちゃになっていたが。
「好きな…ひっく……ものに……あ、愛をっささやいて……ぐず……ほしいっ! ……抱きしめ、て……口づけてほ、しいっ! ……だ、だ……抱いてほ……し……い……」
「……」
「だっで……じゃないと……ミュールが……いなく……妾は、わすれたく……あぐ……」
分かっていた。己が何を望んでいるのか。それをすることで誰が一番傷つくか。
「でもっ……わらわの、中……うっく……ひぐ……『殺されるぐらいなら』……せめて……傷ぐらい……残し――」
その瞬間、ハンナベルに影が覆いかぶさった。
影は外で冷えていたのか接した唇から冷たい感触が広がるがそれはすぐに熱で溶け、すぐに離れた。
呆然とするハンナベルにミュールは気軽に言った。
「知ってるか? 男には避けられない攻撃が二つあるんだぜ?」
ミュールが人指し指を立てる。
「一つは俺の銃弾」
続けてに中指を立て。
「もう一つは、女の涙だ」
その言葉の意味をハンナベルは考え。
「……くす……全然……かっこよく、ないぞ」
「惚れた補正でなんとかしてくれ」
思わず噴き出したハンナベルに顔を近づけると。
「……一度だけだ。それでいいのか?」
何を示しているのか、その言葉に。
「一度だけで十分だ……ミュール、主を妾に刻んでおくれ」
再び口が繋がった。
今度は深く、口から広がるタバコの匂いにハンナベルは苦さと安らぎを感じた。



「はむ……ちゅぐ……ん、んんっ……」
ぐちゅぐちゅと二つの体がたった一点で交わっている。
「……んっ……ぷは、ミュー、ル……激し……息、がっ」
初めから彼は激しかった。
繋がり交じり合う口は執拗で、つい先ほどまで経験のないハンナベルを容易に追い詰めていく。
本来竜は人間よりも長時間息を止めていたとしても早々息切れなど起こさないが。
「くっふ……息……ちゅちゅ……頭……ぼーっと、して……んむ」
場の雰囲気にのまれたのか、面白いほどたやすくハンナベルは息を乱していく。
「ぢゅる……ぢゅるる……んん〜〜っ!」
舌が絡み巻き上げるように啜り、また口内を縦横無尽に荒らしていく。
それは高めるというよりも、貪ると表現するべきか。
「……ず、ふぁ……ちゅぷ……はぁ……はぁ……」
舌が離れた時、ハンナベルの頬は上気し瞳はぼんやりとしていた。
三角巾がずれて、落ちた。
だが攻め手は緩むことなくハンナベルを壁へ押し付けると、服の上から胸へ手を添えた。
「あ……」
何が起きているか理解する前に、荒々しい手が胸を揉みしだく。
「っん!」
痛みか驚きか目を瞑るのを良いことに、その首筋に吸い付く。
チャク……ヂュズ……
「ひくぅんっ!」
ぞわぞわと駆け上がる悪寒にハンナベルが身を震わせる。
そのまま胸と同時に攻められる中。
「す、すまない……」
小さな呟きに動きを止めた。
それにハンナベルは顔を赤くしながら。
「わ、妾の胸……小さいで、あろう……その、主はもっと大きな方が……」
その言葉に、胸から手が離れ。
「胸は、大きければいいってもんじゃねえよ」
いつの間にか外れたボタンの隙間から、するりと大きな手が滑りこむ。
「ひゃうっ!」
冷たい手が肌を這い、薄い脂肪を探り当てる。
「そりゃ大きいことに越したことはないが」
手は包むように胸を覆うと、手のひらでゆったりとこねる始める。
ぴくりとハンナベルが体を動かす。
「あ、やっ……」
「まずは柔らかさ。これは女特有のものだ。そして男ってのはこの柔らかさの虜になる」
ハンナベルの胸全体に広がる冷たさ。だが、それは手が動くたびに胸の奥から熱を持ち、徐々に全体が火照ってくる。
胸全体が熱くなり、手が動くのに合わせて慎ましい突起が硬くなっていくのがわかった。
「次に収まり具合。まあ簡単に言うなら馴染むか馴染まないかだが、今のところいい具合だ」
こねる手にも熱が伝わり、やがてこねる手つきから回すような、ゆっくりと中心へと搾り上げる動きへと変わっていく。
硬くなった突起が手の平と胸の間でコリ、コリと転がる。
「ひっ……んんっ」
どれも優しく柔らかく確実にハンナベルを追い詰めていき。
そっと乳首を指が挟み。
「最後に、感度。これが鈍ければ話になんねえ」
「んひっ! ぁぁああっ!!」
クッと指に挟まれたまま引っ張られ、内股になってハンナベルは全身を震わせた。
「はぁぁ……んぁ……」
ブルリと体を震わせるハンナベルに遠慮することもなく、スカートの中へと手がつきこまれる。
手先に下着の感触はなく肌の感覚が直に伝わってくるが、太ももが邪魔をしてそれ以上進めない。
「……っ!!」
心は許しても体は反応してしまうのか、必死に力を込める姿を見ながら耳へと口を近づけ。
ヂュル……ヂュルル……
「ひっ!」
ハンネベルの耳の中へと舌が差し込まれた。
それは音を聞かせるように耳を這いずり時折奥へと進み、その怖気にハンナベルの力が抜けていく。
また余った手がこりこりと、手の平で乳首を重点的に転がし始め。
「ぅあ……耳……乳首……いっしょ、だめ……あんっ」
足の守りが緩んだ瞬間に中指が潜り込み。
ヂュク……
湿った水音を立てた。
「……あ……やっ……ちが、違うっ」
弱弱しくハンナベルが首を振るが、ちゃくちゃくとかき回す音がその事実から目を背けさせてくれない。
指はゆっくりと外周をなぞるようにして回されていき。
「ん、んんっ」
それに伴うハンナベルの反応を見ながら、何度も何度も指は往復する。
初めは過敏だった反応も、往復を繰り返すごとにゆるくなっていき。
「……はぁ……ぁ……」
気が緩んだ瞬間。
チュプ……
「はぅあっ!」
指がもう一本ほぐれた柔肉をかき乱し、ハンナベルは腰に広がった疼きに呻いた。
膣を浅く抉る手を押えようとするが、それは形だけで力など入らない。
だが指は容赦なく浅い部分から徐々に膣内を抉っていく。
それに膣の入り口、その上で反応する突起へも親指が伸びた。
……クチャ
「きゃぅっ! そこ、びんかっ! あぃっ!」
声を遮るように指を動かす。
薄い皮の下にある硬い感触を撫でつけ、同時に膣内をかき回していく。
そしてむくむくと充血していく突起は刺激にさらにその身を固くし、合わせるように膣を探る指の刺激に身を震わせる。
「……いっ、ああっ……んっ……ぁ、そこっ」
やがて、確かめるような指の動きが、ある一点を探り当てた。
位置的には浅い部分の天井。そこを軽く擦るだけで、小さな体がクンと腰を突き出すのがわかり。
「あ……やっ……そこ、だめ……」
今までにない切羽詰った反応に対して、返答は簡潔だった。
「ひぎっ! あ、駄目っ! 豆とっ! いぎっ!」
探り当てた場所とすでにカチカチとなった突起を三本の指で挟み込み。
グヂュ……ヂュググ……
「あびっ! んぃぃぃいっ!!」
数度擦り合わせた途端にガクガクと全身を震わせた。
おおよそ自分だけでは味わえない快楽に震える体は、未だ触り続ける手によって支えられ倒れることすら許されない。
ジワリと、付け根からニーソの染みが足首まで広がり、その冷たさにまたハンナベルはゾクゾクと身を震わせる。
「か……は、ひぅ……んぶ……んんっ!? ちゅっはぷ……ちゅるる……」
そして余韻を味わう暇さえなく、唇を奪われる。
「ん、ぷあ……はぁ……っ、はぁ……っ」
ようやく解放された時、ハンナベルは腰に力が入らずへたり込んでしまう。
すでに焦点は合っておらず、半開きの口から口付けの余韻か、滴が糸を引き落ちた。
そんな状態のハンナベルの前に起立したものが突き出された。
「……ぁ……」
普段なら驚くなりするのだろうが、今のハンナベルに正常な判断ができるはずもなく。
ただ、半開きの口元へと差し出されたことを、ぼんやりと推測するだけだある。
そして。
「はぁぷ……ん」
小さな口を広げ、ゆっくりと含んだ。
「ちゅ……んん……ちゅぷ……あむ……」
さすがに全ては入りきらないが、それでも口内は熱く、小さな唇の締め付けできつい。
ふやけた意識の中。自分の行為で相手が悦ぶことにハンナベルは喜びを感じていた。
「ぢゅる……んん……こうひて……ほひいのか?」
ゆっくりと舌が動き始める。
「……おむ……ぢゅ……じゅっ……んちゅ、ぺろ……」
拙い動きはむしろ新鮮だった。
亀頭を包む熱は何も知らないがゆえに、臆病で、だが献身的で。
一つ一つ試すような動きに焦れそうになる。
「ん……あふ……ここ、ひい?」
カリ首をなぞる様に舌が動いたと思えば、亀頭を擦り始める。
そして反応を見ながら、少しずつその動きは感じる場所を理解し。
「ちゅぷ……はぷはぷ……ん、なにふぁ……濃い……ぺちょ…味が……」
裏筋からカリの繋ぎ目をチロチロとくすぐる刺激に腰から背骨に甘い痺れが奔る。
「ここ……すごく……おいし……ちろちろ……ちゅぅぅ」
鈴口をとがった舌先がほじり、溢れ出す先走りを執拗に吸われた。
「あたま……ぼーと……もっほ……ちゅ、ん」
ゆっくりと頭が前後し始める。
「はぷ…ん、ん、ん……ぢゅるる……あむ」
舌が裏筋から尿道をぐりぐりと刺激され、先走りを促される。
「ちゅぐ……れぇろ……ん……ぺちゃぺちゃ……んん〜ちゅるる……」
執拗に鈴口が刺激され、ズンと腰の奥が抉られるようにうずいた。
ハンナベルは一度大きく鼻で息をすると。
「んもご……ず、ずずず……んふー……ん、ぢゅぐぐ」
またゆっくりと大きく呑みこんでいく。
ちゅうちゅうと吸いながら包まれていく感覚は耐え難く。
「――くっ!」
腰が震えた。
――ドップ
「んむ……んぐ……ちゅぶ……あぷ……ぢゅるる……」
突然の射精にもハンナベルは驚くわけでもなく、逆に目を細めながら吸い込みを強くした。
「んんん〜〜……ず、ずずず……っ」
強く吸いながら頭が引き抜かれていく。
ピストンで作られた真空に吸い出されるように射精が促される。
――ドッピュトプトプ……プヂュヂュヂュ……
緩く前後する頭は精液を吸い出しながら喉は味わうようにゆっくりと嚥下してく。
――ピュルル……ヂュプ……
長い、長い射精が終わり。
「……ぢゅ……ぢゅるるる……ぷちゅ……ん、んく……ごく――はぁぁ……」
最後の一滴まで呑み干したハンナベルは大きく息を吐いた。
そこにあるのは初心な乙女の顔ではなく、蕩けた艶女の顔があった。
「ん……はぁ……はぁ……」
それでもハンナベルはすでに疲れが見えるのか若干弱々しい。
だが。
「……ミュール」
袖を引っ張る手を取ると、そのまま体の下へ通し抱き上げる。
無雑作にハンナベルをベッドに横たえると、服へと手をかけた。
「……」
それをハンナベルは無言で受け入れ。
ほどなく向かい合うと。
「刻んでくれ……主の全てを……」
ぶら下がるように首に手をかけると、ハンナベルは覆いかぶさる愛しき人へと呟いた。
――チュグ
「ぃ……」
触れ合う粘膜にどちらか体が震え。
――ズグ……ズズズズ……
小さな体に不釣り合いな大きさのものが静かに呑みこまれていく。
「ぅ……く……ああっ!」
「……」
ぷつぷつと引きはがす音がするが一切躊躇はしない。
「いたっ……あぎっ! いっ……」
――ズブブブブ……ッ!
やがて、強い膜の抵抗にあい。
「はぁ…あっ! い――っ!!」
――ブ……ツッ!!
「――っ!!」
声にならない悲鳴を聞きながら、進んでいき。
コツリ、と奥へと突き当り、止まった。
焼けるように熱い膣内は痛いぐらいに締め付けてきて、結合部から一筋血が流れた。
「――あ……」
それを感じ取ったハンナベルは、涙を浮かべながらも精一杯の笑みを浮かべ。
――ズッグ!
「あぎっ!」
容赦なく突き込まれた衝撃に悲鳴を上げた。
――ヂュッグ! ズン! ズンズンズン!!
男を知らなかった場所を容赦なく突き上げる。
組み敷いた小さな体を翻弄し、蹂躙していく。
苦痛を我慢する必死な表情を見て、自然と首が下がり。
「あふっ!」
ゾロリと首筋を舐め上げた。
左手は体を固定すると同時に胸をこね、右手は繋がっている場所へと伸び。
クヂュリ……
「っあ!」
陰核を押しつぶしながら、浅く膣の天井……ハンナベルの弱点をゆっくり抉った。
「ひ――ぃぁぁああっ!!」
ブリッジのようにハンナベルは腰を突き上げるのを見ながら、同じ個所を何度も削っていく。
ジュッズ! ジュッズ! ゾゾゾッ!!
「はっくっ! いっ! つよっ! つよす、ぎぃっ!」
声のトーンは一段上がり、悲鳴は切羽詰っていく。
数度往復した時。
――ズズズッ!
「ふぁ……あぁぁああっ!!」
キュゥっと膣が締まり始め、ハンナベルはのけぞりながら全身を硬直させる。
口をパクパクと開閉させ、何かを言おうとしているのを――構わず擦り上げた。
「がひっ! いや゙っ! いま゙――あひぃい!!」
聞く耳は持たない。ゾリゾリと天井を擦り、そのたびに締まる膣を突き進む。
「おぐっ! びっ! あ゙あ゙ああっ!!」
休ませる気はなく、ランダムに陰核や乳首を押しつぶして刺激を与えた。
一突き、一捻り毎にハンナベルの体が跳ねる。
狭い穴を強引に削り広げ、さらに狭くなる。
ふと思いついて、手を臀部へと回した。
「――ひっ!」
そこにはゆるりと生える尻尾があり、付け根から撫で上げた。
「は――ぁぁぁぁああああ……っ!!」
得も知れない感覚にハンナベルが背筋を伸ばし悶えた。
「それ……らめ……ゆるし、れ……」
今まではまた違う感覚に呂律すら回らないハンナベルを前に、当然止めるはずない。
強くはせず、あくまで表面を滑らせるように手で尻尾を撫でる。
「ふぁぁぁあああ……っ!!」
それだけで小さな体は背筋を伸ばし悶え、それ合わせて膣内を削った。
――ジュグ……ズズズ……ッ!!
「かひぃぃぃっ!!」
その二つを交互に繰り返すだけで、目の前の体は際限なく乱れていく。
「――か――ぁ……っ……っ!!」
そして声を上げる余裕すらなく、空気を求めるように口は開かれたままとなり。
苦痛かそれ以上の快楽か色をなくしかけた瞳を見ながら、込み上げてくる欲望に止めを刺すことにした。
左手は陰核の上に置かれ、右手は尻尾の付け根に、そして陰茎をギリギリまで抜き。
「あ……」
今まで分けていた動きを“同時”に行った。
「あ゙……くぅぅうう――っ!!」
――ジュグゾゾゾゾ……ッ!!
尻尾を握りしめるように強く摩り上げながら、陰核を潰し膣から挟み込むように弱点を抉りながら突き上げる。
「ひっ…! ひぎっ! ぁぁぁぁあああああああッッ!!」
折れろとばかりにハンナベルが腰を仰け反らせる中。
――ビュルルッ!
「お、ぃぃぃいいっ!!」
熱湯を浴びたようにハンナベルが跳ねる。
――ブビュル! ビュブブブッ!!
「あ゙っ! ああ゙!! あ゙あああああっ!!」
子宮へと浴びせかけられる熱に、ただ獣の呻きが漏れた。
「ひあ゙ぁぁあ゙あ゙っっ!!」

どれだけ経っただろうか。
力尽きたのかぐったりとベッドに沈み込むハンナベルは、覆いかぶさるミュールへと腕を回した。
伝わるのは穏やかな心音と体温。
聞こえるは安らかな寝息。
「重いではないか……普通男とはここで腕枕をするものなのだろう?」
どこまで自分本位。だが、それはハンナベルだけに見せる姿だと思うと、許せてくる。
「想像の中とは違うが……これもよく思えてくるのが……惚れた弱みか」
温かい重みを幸せへと変換して。
「ありがとう、ミュール……ただ一晩だけの……妾の恋の願い」
流れた滴は頬をぬらし、だが口元は弧を描いていた。



荒れ噴きつける風、そこは一番空に近かった。
星もない夜の下、見渡す限り地平を黒が染めつくす中、佇むは黒衣。
夜に溶け込んだそれは、いつものように眼下に広がる『星空』へと視線を下していた。
「――おい」
不意に背後から声がかかり。
――ドゴッ!!
熱い衝撃が頬を抉った。
「……ってぇな」
ミュールが振り返った先には左拳を握ったアラドがいた。
アラドはすごい形相で睨み付ける。
「ミュール……お前、何をやったかわかってるだろうな?」
それにミュールはタバコを取り出すと笑った。
「ああ、十分理解してるよ」
――ボグッ!
二度目の拳でタバコが宙を舞った。
「ってて……あーあーお前、ポイ捨てなっちまったじゃねぇか」
それでも態度を崩さないミュールに、胸倉を掴みあげた。
「お前こんな時までふざける気か!!」
怒号が夜に響き渡る。
その様子にすべて悟られていることを知る。
「……なんだよ、覗きか? 趣味悪いぞ」
「お前の態度とハンナベルの様子を見れば誰だってわかる! 特にお前とはどれほど長い付き合いだと思っている!」
片手で釣りあがった状態でも、ミュールは冷たく見下ろす。
「じゃあわかれよ」
――ドガッ!
「わかるかよ!!」
三度目は、吹き飛んだ。
ごろごろと地面を転がった。
だがミュールは血の入った唾を吐き、悠々と立ち上がる。
「気軽に殴りやがって」
「お前はっ! 俺たちがどういう存在かわかってるんだろ!! だったら何してんだよ!!」
それは己たちが決して根本的な部分で交わってはいけない境界線を表していた。
「ハンナベルは知っていた。それで、後悔でもすると思ってるのか?」
「思ってるはずねえだろ!!」
我慢しきれぬ激情にアラド握りしめた右手がギリギリと鳴る。
「思うはずねえだろ! だがな、後悔しなくても刻んじまったらそこに、そこにいたことが残っちまうんだぞ!!」
その言葉にどんな意味があるのか。
「ああ、ハンナベルは強いさ! たとえ何も残らなくても、それを自覚してもなお強く生きれるさ」
アラドの目は、ミュールを見て。
「だが、下手するとお前自身が――」
「それ以上気安く言うんじゃねえよ」
いつの前にか近づいたミュールの拳がアラドの頬を抉る。
「がっ!」
思わず一歩下がったアラドを見て、ミュールは歯をむき出した。
「どうした十秒男。その姿でも十秒ならどんな攻撃でも耐えられるんだろ?」
頬を拭うとアラドはミュールへと向き合い。
「はっ! どんな攻撃でも十秒防ぎきるって意味で、攻撃自体を無力化するわけじゃねぇよ! 間違えんな百メートル狙撃手!」
「それは悪かった――なっ!!」
二人は同時に殴りかかった。
「いつもてめぇは澄ました顔しやがって!!」
「ああ! その飄々とした態度が気に入らなかったよ!!」
それは一切の手心がない素の殴り合い。
「お前ばかり良い目見やがって!!」
「お前は美味しい目に合ってるからいいだろうが!!」
今まで言外で分かり合っていたことの確認で。
「守りが主体じゃないのか騎士様よッ!!」
「心も体も冷たくじゃないのか狙撃手っ!!」
これ以上ないほどの本音で。
「怪力変態尻魔がっ!!」
「眼鏡変態乳魔がっ!!」
どこか、子供じみたやり取りであった。
「「お前の存在が気に入らないっっ!!」」

「あ〜……くそ、ぼこぼこ殴りやがって」
見上げた空は真っ黒で、上げた声は響いて消える。
「……狙撃手が近接で勝てると思っていたのか?」
ぼろぼろの体を横たえる二人は、力尽きて動かない。
「あれだ、鎧は卑怯だ。こっちの攻撃通らねぇ」
「銃底で殴り掛かってきたからチャラだろ。剣抜かなかっただけ感謝しろ」
時折痛むのか咳き込み、口に溜まった血を吐き出すの億劫である。
「義手と生身じゃ力違いすぎるだろ。ハンデくれハンデ」
「普通逆だ。あと右手は使ってないぞ」
「っち。騎士様が……憎々しい」
「最後のはそっくりお前に返してやるよ」
やがて大きな風が二人を撫で。
「どうするんだよ……ミュール」
ミュールはゆっくりとタバコを取り出し。
「……どうなろうとも俺にできることはほぼ無いさ」
「おい」
「――だけど、足掻くさ。お前だけに全部背負わせるってのもな」
「そういうこと言ってるじゃ――」
――キンッ、シュボ……ジジ
「……ふー……ばっか、まだ俺は世界の乳を制覇してないんだぜ?」
「……それ言うなら、俺だって世界の尻を制覇してないな」
煙は暗い空を高く高く上り。
「ハンナベルは強い……あいつは自分で自分のことは全て片づけちまうさ。だから、俺は俺のことをするだけだ」
「ははっ……本当に、カッコつけるの似合わないな」
「お前もだ、馬鹿野郎……く、くはは」
二人は馬鹿みたいに笑った。


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