「狐惑」 作:匿名希望 「……待宵様」 僕は月を見上げながら肩の重みへ話しかけた。 「…………」 伏した目は向けられず、眠っているかのように静粛。 だがぴくぴくと動く耳から聞いていると判断し、言葉を続ける。 「まだ……お疲れではありませんか?」 その言葉に彼女はそっと目を開いた。 「そうですね。神力の補充にはすけ屋の牛丼ではいささか足りません」 視界に隅には今日食べた牛丼の袋がある。 足りなかったのだろうか。 「まだ買って来ましょうか?」 僕が立ち上がろうとすると、押し留められた。 「……?」 「供物は決して霊質として低くはありません。ましてや私に対する『気持ち』が込められた物です。供物自体の量は関係ありません」 視界の端にある袋には空になった牛丼が三つある。ちなみに僕が食べたのは一つだけ。 うろんな視線に気がついたのか、ぷいっと顔を逸らされた。 「こほんっ! とにかく問題は『効率』です」 彼女は指を立てて言う。 「信仰や気持ちを物に込め、それを受け取り吸収する。その物に込める過程が余計なのです。 もっと効率のいい方法はあります」 「……それは?」 僕の言葉に彼女は振り向く、その小さな手が顔へ伸び、ひんやりと冷たい感触が頬を撫で。 「生贄、人柱、人身御供……私たちは人の信仰によって生かされています。なら、それを直接人から取り出せばいいのです」 首の付け根、確か太い動脈がある辺りに細い指が爪を立てた。 「例えば血、例えば肉……古き者の多くは熱き流れる血で喉を潤し、血滴る肉を頬張ったと言います……その命と共に」 細まった瞳は鋭く、顔に浮かぶものは何も無くひたすらに冷淡。 手の冷たさ、肌を突き破る爪の痛み、じわじわと溢れる血を感じても、僕は動かなかった。 「畏れないのですか?」 不思議そうに聞く彼女に想ったままを口にする。 「あなたなら……僕は構いません。 あなたのためなら、この命惜しくありません」 それは陳腐だが、心の奥底から湧き出す純粋な欲求。 「――――」 「…………」 視線が絡み。 「はぁ……まったく」 彼女は溜息を吐いて首から手を離した。 「人の子の命を求めるなどすでに廃れたことです。 それに誇り高き稲荷の遣いは、そのような物は求めません」 そして彼女は懐からちり紙を取り出すと、僕の首へと当て血を拭う。 「あと……嘘でも命が惜しくないなど言わないように。 人の命は儚い、もっと大切になさい」 「いえっ! 僕は本当にっ」 思わず声を荒げると、人差し指が口を封じる。 「さっきは力を取り込む効率の例えとして血や肉を出しましたが、まだ他にも方法はあります」 なにがと問う間もなく、股間へ違和感を感じ下がろうとするが、止められた。 「……へ? いやあのちょっとっ! 待宵様っ!?」 ベルトをがっちり掴まれ焦る僕に、彼女は言う。 「どこへ行きます。じっとしてなさい」 そう言うと、彼女は僕の股間へと手を這わせた。 なにがどうなっているのかわからない。 混乱しているうちに状況はどんどん進んでいく。 「む……『ジパー』は力加減が難しいですね。中々下りません」 慣れない手付きでジッパーを下ろしていく彼女。 手が出せないうちに、さっさと彼女はそれを取り出してしまった。 「なぜ縮こまっています」 小さな手に掴まれているそれは、どう見ても起立しているようには見えない。 ギロリと睨まれる。冷たい手は気持ちいいけど、こんないきなりで心の準備もなにもないのだ。 男の権限から言って、使い物にならないわけではない。 「まあいいでしょう。あなたは動かなくて結構」 そう言うと、彼女はものをしっかり握って上下に動かし始めた。 拙いわけではないが、決して上手いわけではない。 あくまで機械的な一定したリズム。 だが、それをやっているのが彼女だと思うと血が集まっていくのが判る。 固くなってきたものをしごきながら、彼女は僕へと問いかけた。 「さっきの続きですが、人から直接力を効率よく取り込む方法……わかりますね?」 まあ……ここまできて判らない方がどうかと思いますが。 そう伝えると彼女は根元をキュッと握り締める。 「物分りが良いのは好ましいことです。褒美をあげましょう」 そしてゆっくりと屈んで、握り締めたもの顔を近づけていく。 労働した後なのでせめてシャワーを浴びたい、そう思うが。 更に彼女は顔を近づけると鼻をヒクつかせ。 「軽く蒸れていますね。ですが、嫌いではありません」 そっと舌を這わせ始めた。 熱い舌が、ぺったりと張り付き唾液を擦り付け上る。 それだけで腹の底がぞくぞくした。 「ちゃぐ……くちょ…」 舐めるのではなく、舌で表面をこそげ取るような動き。 その上でたっぷりと唾液を馴染ませ擦り込むようにも見える。 「……じゅる…ぴちゃぴちゃ……」 ふと、犬は己の縄張りにマーキングをすることを思い出した。狐は同じイヌ科。自分が彼女の縄張り(所有物)になったような錯覚に陥る。 「れる……ん」 一通り舐め終えたのだろう。散々唾液を擦られたものは、てらてらと唾液で光り、なにもされてないのにジンジンと痺れる。 「これぐらいで参っては、先が思いやられますよ」 呆れた声を聞くと同時に、さらなる快感が襲い掛かってきた。 冷たい手が根元から牛の乳を扱うように、強く絞り上げていく。 小指から薬指、中指、人差し指、親指と順に握り込まれ、それに合わせゆっく上下に扱かれる。 「どうですか?」 問いかける声に応える余裕が無い。 細い指は唾液で滑らせながら、早く出せと言わんばかりにきつく、だが優しく絞っていく。 「中々粘りますね。では……これは?」 これ以上なにがあるのかと思うと、彼女は手元に顔を近づけると。 「……れぇろ」 「っ!」 カリ首を強く舌で抉られた。 先ほどと違い、掘り起こすような力で這う舌。 腰が震えるが、絞る手で巧みに押さえられる。 「はん……んん……ん〜」 根元から絞られ、先端を抉られる。 我慢もすでに限界へ達しようとしていた時。 舌が、赤い舌が鋭く、尿道口を抉じ開けた。 「――――っ」 痛みを伴う『熱さ』に、僕は我慢できるはずもない。 「きゃっ」 腰が震え、その奥から勢いよく彼女の顔へとぶちまけた。 最中も彼女の手は止まらず、絞られる度に残りが噴出す。 ようやく勢いが衰えた頃になると、顔をべとべとにした彼女は少々怒った風であった。 「果てるのなら先に言ってください」 そう言うと彼女は、敏感になっているそれから流れ落ちる子種を舌ですくい取っていく。 その次は自らの顔にかかったものまで指で集め、口へと運ぶ。 「ちゅぷ……ん、ここにも……」 ちろちろと覗く赤い舌がやけに目に付く。 体の奥底からゴッソリとそぎ落とされたような倦怠感に苛まされる中。 「んん…味も濃さも問題ありませんが……まだ…足りません」 息も絶え絶えな僕の方を向き、彼女は――待宵は、唇を舐めた。 普段の彼女からは想像できない色気に、背筋が凍り脳髄が熱くなる。 萎えることなく勃ち続けるものを見て、彼女はうっすらと笑みを浮かべた。 もし獲物を見て野生の狐が笑うなら、こういう笑みなのだと思う。 「足りない分は……量で補いましょう」 再び舌が這う。 舌は根元から螺旋を描くように、徐々に上がっていき。 「ちゅ、んん……馳走になります」 ぬるりと、熱いものに包まれた。 「ふぅ……ん」 先ほどとは違う快楽が腰に広がる。 小さな口がグロテクスなものを精一杯頬張っていく姿は、背徳感を持ち、ゾクゾクと背筋を駆けた。 そしてある程度まで収めると一旦止まり、ゆっくりと動き始めた。 「ん、ぢゅっぷ…ちゅぴっ、ちゅっちゅ、ぷちゃ」 単純に頭を上下するだけの動き。 だが常に吸い付き、甘噛みするかのように圧迫し、舌が巻きつき絞ってゆく。 ゆるやかに解体されていくかのような快楽。 もどかしく、手を出そうにも息が上がり出せない。 そして徐々に吸い付きが強く、動きが早くなっていく。 「ぢゅっぢゅっぢゅ…ぷあっ、あむっんんっ!」 限界は直ぐに来た。 腰が浮き、解き放とうとしたのが判ったのか。彼女は一際圧迫しながら先端まで抜くと。 彼女の口と先端の小さな口が繋がり。 「んふ……ぢゅぅっ!!」 ストローのように吸われた。 ガクガクと体が勝手に震え、目の前がちかちかと瞬き、射精は痛いほど衝撃的で、それ以上に『快楽』が勝る。 体の奥から、直接大切なものを吸い取られる感覚。それは得がたい快楽と比例するかのよう。 「ぢゅっぢゅぅう……」 涌き出る端から吸われ、射精が止まった後は尿道のものも残らず吸い取られる。 そして彼女は、口に溜め込んだものを少しずつ飲み込んでいく。 「んくっ……こく…こく…」 味わうように飲んでいく彼女を見て、崩れるように仰向けになる。正直疲れ果てていた。 だが、 「……もぐ」 湿った刺激が来て、飛び起きそうになり、異常に疲れた体は動かず、首だけがそれを見る。 彼女が萎えかけていたものを再び咥えていた。 今度は火照った手が絞り、舌で舐め口が咥えていく。 待てと言って止めようとするが。 「ふぁ…んふ……ぴちゃ……まだ……んぐ……足りま、せん」 漏れ出す艶めいた声が、上気した肌が、ドロリと蕩けた瞳が。 神聖なはずの彼女が放つ、獲物をなぶりしゃぶりつくすような『魔性』に声を奪われる。 そして気がつけば、もう無理だと思っていた僕のものは三度勃ち上がっていた。 囚われた僕が見る中、彼女は一度咥え直すとこちらに笑いかけ、僕のものを呑み込んでいく。 「んぶ……ぶぶ……んぐっ」 それは呑み込むという表現が一番近かった。 熱い舌の動く口内を通り、狭い喉の奥へと呑み込まれていく。 根元までいくと、僕は止めていた息を吐いた。 全体を満遍なく圧迫され、彼女が喉を鳴らすたびに緩やかに蠢く肉を感じる。 思考に霞がかかっていた。二度に渡り彼女に『搾取』されている体は限界で、脳は警報を発する。 だが、欠片だけ残った理性がそれを全肯定した。 「おぐぐ……ぐちゅぅ…ぷぶっ…んふぅ……んっんっんっ」 彼女が動き出す。 手とも違う柔らかくてきつい締め付けは、少しずつだが確実に快楽を蓄積していく。 ぴっちりと隙間なく張り付く喉の感触が、彼女の秘裂へ挿入しているような錯覚を起こす。 「ぐぷ…ぬろろ……ぢゅりゅぢゅりゅ」 嚥下するように喉が大きく動くと、それに合わせて強く圧迫される。 腰が抜けそうな……いやすでに抜けている中、甘い甘い痺れが広がる。 「ず、ずるるるるる〜っ」 さらに彼女はうどんを啜るように、喉の奥へと吸い込んでいく。 真空になったかと思うほどの吸引。 三度目にも関わらず、僕は我慢すらできなかった。 「んぶ…んん……」 今までと違う倦怠感。じんわりと染み入るような心地よさに包まれていく中。 「…ぶちゅ……ぢゅぞぞぞぞっ!」 「が――っ!? 突然の感覚に、思わず声が上がる。 それは傲慢で暴力的であった。 体の奥の奥から、強引に奪い吸い尽くし、絞り尽くさんとする地獄のような快楽。 「ず…ぢゅぢゅっ……ずぞぞ……っ」 射精は止まらず、睾丸が鈍痛を発し、どくどくと気が狂いそうな量を搾り出す。 その度に彼女の喉が水を飲むかのように動く。 「っぐ…んぐ…んぐ……じゅるるる」 あまりの快楽に気を失い、次の瞬間に快楽で目覚めさせられる。 命の危機すら感じ始めた頃になって。 「……ず…ずず……ん、ちゅ…」 それはようやく、終わりを告げた。 吸い付きながら、一滴も零さず口で抜き取られる。 そして彼女は上を向くと、ゴクリと喉を鳴らし、ぶるりと身を震わせた。 「ほぅ……っけふ」 名残惜しむような、満足げな息が洩れるのを聞いて、僕の意識は薄れていった。 ほんの少しの肌寒さと、多大な暖かさ感じて目を覚ました。 体はだるく、途轍もない疲労が重く圧し掛かる。 ふと体を包む暖かさが気になり、ひどく苦労して顔を向けた。 「すー……すー……」 そこにはしがみ付くようにして眠る彼女の姿がある。 「……待宵様」 夜はまだ肌寒い。自然と暖を求めた結果であろう。 さきほどの妙艶さとは無縁の寝顔に、心が和む。 渾身の力を込めて腕を動かした。 のろのろと頼りない腕は、彼女の頭へと届く。 そしてその柔らかい髪を静かに撫で付けた。 「すー……んむ……東人……」 寝ぼけた声に、自分の名前が出て思わず耳を澄ませる。 「……これは罰です……この牛丼のたまねぎを食べなさい……むにゃ」 どうやら随分と幸せな夢を見ているようだ。 とりあえず耳元で呟いておくことにする。 「好き嫌いはいけませんよ待宵様。好き嫌いはいけませんよ待宵様……」 「むにゃう……これは罰であって……決して、好き嫌いではっ」 少し顔をしかめ一際しがみ付いてくる。 それを見ながら、僕はゆっくりと息を吐き。 「……あなたが好きです」 ふと胸に浮かんだ言葉を吐き出しながら、今の幸せを噛み締めた。 目次へ戻る |